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体育がないことが唯一の救いだけど、首までぴっちりネクタイはキツイ。
慎太郎にあの痕見られたら厄介なことになるのは絶対。
だけど、俺がどこいくにも何するにも子犬のように着いてくるので気を緩められない。
慎太郎は、俺の事が好きだから、とか、そばにいたいから、とかそういう理由でいつも一緒にいるんだと思ってた。
けど、俺がふと、家に帰った後のことや、鬼塚のことを思い出すとすかさず慎太郎は俺に話しかけてくる。最初は偶然かと思ってたけど、多分違う。俺はきっと、顔に出てるんだろう。
寂しいも、辛いも、無意識に慎太郎に悟らせてしまってる。
学校では、慎太郎と共に行動してるから1人ではない。
はずなのに、時々恐ろしいほどの虚無感に晒される。
何かの拍子に左手首から覗く、昨晩つけられた痕が視界をよぎる度、鬼塚のことを思い出す。
きす、した事とか、内心ぐちゃぐちゃになりながら交わした会話を思い出して、ほわっと顔に熱が帯びる。
顔だけじゃない、全身。それからズシンと、体が重くなる。
昨日、あんなことがあったんだから、何か進展してるかもしれない。
この身体中の痕も鬼塚が付けたんだとしたら、そこには、間違いなく、唇が触れているわけで。
うっ、と、思わず声に出してしまいそうな程、ぎゅうっと全身が締め付けられる。
そうだ。帰ったら、いつもと何か違うかもしれない。
普通には、話しかけられないだろうけど。
少しでも前とは違う何かがあったら、俺は、今度こそ本当に、変われるかもしれない。
ただの同居人から、別の、鬼塚の特別になれたらいいのに。
俺はその日、早足で下校した。
時々左の手首にちらりと視線をやっては、また頬がじわじわ熱くなってくのを感じた。
おにづか。
鬼塚。
昨日の光景が頭をよぎる。
いつも、体に触れるのは鬼塚からで。たまに、きつく俺の腕を掴むから、俺から鬼塚に触れることは出来ない。
恥ずかしくて身体を押しのけることはあっても俺は鬼塚に触れない。
きっと手が震えて、本心丸出しになってしまうから。
本当は触りたい。
好きだとバレないよう、寝てる間とかに、こっそり。
触りたい。
会いたい。
俺は、気づかないうちに走ってた。
はあはあと息を切らしてマンションのエレベーターに乗り、2、3度咳き込んで息を整える。
心臓が、ばくばくいってる。喉の奥がひゅうひゅうと不気味な音を立てる。
肺にも体にも良くないのに、そんなことよりエレベーターの扉が開くのが待ち遠しくて。
扉が開くと、いつも通りの足取りで、だけどさっきより心臓が早くて。
玄関の扉をゆっくり開けると、「ははっ」と、乾いた笑いが出た。
靴は、当然のように無い。
まあ分かってたことだけど。
こんな時間に帰ってきてるわけないよね。
言い聞かせて、開き直ったように乱暴に靴を脱ぎ、リビングの床にぼすんと鞄を投げた。
俺は、また期待してしまったんだろうか。
さっきまでの盛り上がりも嘘のように、身体中の毛穴という毛穴から気力が抜けてくようだった。
ブレザーも脱がないでソファーにダイブする。
エアコンの暖房もテレビもつける気になれない。
俺はまた、あいつが帰ってくるまで一人のままだ。ちくしょう、早く帰ってきちゃったせいで。
左手首をさする。
あいつがこんな痕付けたせいで、今日の俺は一日中昨日のことでいっぱいだった。サンタとの出来事も吹っ飛んだ。
こうなるようにわざと付けたんじゃ、と思うほど、鬼塚を思い出してはまた熱くなって。
ちくしょう、ちくしょう。悔しい。
部屋を見渡してもあいつは居ない。そもそも今日帰ってくるのかさえ怪しい。
昨日、会ったばっかなのに。
こんなにも会いたい。
だけど、時間は過ぎていく。8時頃か、なにも食べる気にはなれなかったので風呂に入った。
前ボタンのパジャマを着て、もういっそ寝てやろうかと思った。
その時、スマホが小刻みに振動した。
マナーモードにしてたのをすっかり忘れていた俺は、画面を見てハッと気がつく。
電話の発信元に、「サンタ」の文字。
慌てて受話器ボタンを押す。
「もしもし、」
『 もしもし!まきまき?』
「サンタごめん、昨日電話くれたよな?」
『 あー。そうそう。別になんか用ってほどでもなかってんけど』
なんだ、と一安心する。
『 あれ、りゅーくんに見られた?』
あれ、とはつまり、数秒考えて察した。
「サンタが噛んだ⋯」
『 ははっ。あれ見られてたらまきまき無事じゃないやろなーと思って。』
「見られたし⋯無事でもなかった⋯」
サンタがまたははっ、と笑った後、少しの沈黙が流れた。
『 ⋯なぁ、』
「っへ、なに」
『 一応、昨日帰った後何があったかだけ聞いてもええ?』
「⋯あ、」
ぶわわ、とまた顔が熱くなる。これ以上思い出したくなかったのに。
『 はは、なんか今のでちょっとわかったわ。』
「え、まじで」
『 自分のモンはおもちゃでも独占したがる人やからなぁー』
おもちゃ、っていうのは俺の事だろうか。
サンタは時々、俺の期待を覚ますようなことをサラリと言ってのける。
『 で、今家?』
「う⋯ん。」
『 へーぇ。』
むかっときた。
こいつのこの俺を見透かすスキル。嫌いだ。
『 な、欲求不満てことない?』
「?なにが?」
『 まきまきが。ちゃんと自分でシてる?』
何言ってんだこいつ、と思い問いかける。
「するって何を」
『 何をて、自慰。』
「⋯⋯⋯は、」
『 なんやったら電話越しに手伝ったろか?』
「なっ、はぁぁ!?余計なお世話なんだけど!!てか電話越しに手伝うって何、俺欲求不満じゃねえし!バカ!」
暴言を吐き捨て、ほぼ勢いで電話を切った。
全く何考えてんだあいつ。はぁ。
むかむかして、気晴らしに冷蔵庫の中を漁る。
奥の方に缶ジュースが2本あったので、2本とも取り出してソファーの前のテーブルの上に置く。
多分鬼塚のだろうけど、奥の方にあったってことは本人も忘れてるだろう。
夕食の代わりにジュースでお腹を膨らませて、さっさと寝よう。
そう心に決めて、俺は勢いよく缶を開けた。
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