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手渡されたコーヒーをちびっと飲んでみる。
くっそ苦い。砂糖のさの字もない。
リビングのソファーに腰掛けカップをテーブルに置き、一息ついた。
まだ少し心臓の音が速くて、状況を整理しようにも感情が先走ってどうも頭が回らない。
今日は土曜日だからこのまま家にずっと二人きりなんだろうか、とか、一昨日の夜キスしたこととか考えちゃってもうどうしたらいいのか⋯
何がやばいかって、こんなんじゃ俺思ってること全部顔に出てしまう。だってあんなキスしたら普通こうなるし手首とか身体中の痕全然消えないしもうダメなんだって心臓もたないんだって!!
もう一瞬でもいいからこのコーヒーと魂入れ替えて俺も優雅に湯気立たせてたい。
この体で通常運転は無理よりの無理だ。
前みたいに優しく名前呼ばれたりなんかしちゃったりしたら確実に死⋯
「まき」
「ひっ!!」
反射的に振り返るとご本人様がいらして、驚いて俺は怪物でも出たのかってくらい身構える。
「⋯な、なに」
「コーヒー。ひとくち。」
掌を差し出す。
なら最初から飲んどけばよかったじゃんって皮肉も言えないほどドッキドキしてて、てか俺さっき飲んだから関節キスになるんじゃねぇの?もう、そういうの気にしないのかそもそも意識されてないのかどっちだ。
カップを渡そうと、取手をつまみ鬼塚の目の前へ向ける。それを、受け取ろうとするのは当然で、うっかり手が触れてしまうってのはよく考えればわかる事だったろうに。
手と手が触れたのは一瞬で、だけど俺はその一瞬の内に色々思い出してしまって。
この手で、
このあったかくて大きな手で頬を、背中を、唇を触られ、目が回りそうなほどに心地よく官能的とも言える気持ちになったことを思い出した。
目の前には、あの時と同じ手。
一気に意識が手もとに集中する。
ブワッと、汗とともに熱が顔に集まり、恥ずかしさと緊張がピークに達した。
ダメだ、と思い即座に手を離すと、カップは2つの手から滑り落ち、ガシャンと床に音を立てて落ちてしまった。
割れたカップの破片が、足元に飛び散る。
「あっ!!ごめ、」
だめ、だめだ、どうやっても態度にでる。明らかに挙動不審。しゃがんで破片を拾おうとしたら、体がふわっと宙に浮いた。
「えっ」
「触んな。指切れんだろが」
まるで子供みたいに、軽々と脇を持ち上げられ、キッチンの方まで抱えて移動。何されてるか理解するのに時間がかかったが、そこでハッと気がつく。
「まっ、まって、鬼塚こそ歩いたら危な⋯っ、」
床には陶器の破片が散らばっていて、それなのに何食わぬ顔で俺を抱えて歩く。踏んだら絶対、痛いに決まってる。
「靴下も履いてないお前と一緒にすんな」
よくよく足元を見ると、鬼塚は冬用の分厚いスリッパを履いてた。
なんだ、それなら良かった⋯
と安心した矢先、あろう事か俺の体をキッチンの戸棚の前で降ろし、くしゃっと前髪を撫でたのだ。
まるで、日常の動作の一部であるかのように、自然と、俺の頭を、優しく、撫でた。
え?
は?
⋯ん?
なんだ、これ。
おかしい、何かおかしい。
異様に距離感が近いというか、優しいというか、人が変わったような。
ごく稀に、声がちょーっと優しかったり、触ってきたりすることもある。
なんなら一昨日は俺の記憶ちがいじゃないかってくらいに理性とかどろどろに掻き乱されたりもしたけど、今日の、これはなんだ。
普通に距離が近い。
名前呼ばれただけで勘違いしそうになる俺にとってこれは由々しき事態であり、早急に原因を突き止めてなんとかこの変な距離感を止めて頂かないと、俺がもたない。
それなのに、目の前のこの男は。
ちょっと前髪撫でられたくらいでこんなにドキドキするなんて自分でも知らなかったわ。
頭に当てた手を、するりと頬まで滑らせて、じっと俺を見る。
向かい合って立ってるだけでもうそこそこ距離が近いのに、更にはキスした時のことまで思い出してしまって。
いや、よく見なくても顔整ってるのわかるから。
もう嫌という程理解してますんでこんなに顔近づけなくてもいいから、はやく、その手を離せ。
「⋯まき、」
ひえっ、
「おっ、おおおれ雑巾持ってくるから!!」
鬼塚の手を払い、大声で叫んだ後洗面所までダッシュする。
訳が分からないまま棚を開けて雑巾を取り出し、深々と深呼吸。
「はぁぁ⋯まじで、何なのあいつ⋯」
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