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お皿を早々空にした鬼塚は頬杖をつきながら、まだ3分の1は残ってるナポリタンを両頬に詰め込む俺をじっと見ている。
待たれてる感じがするが、それ以上になんか面白いものを見るような目で見てくる。
「・・・なに」
「口についてる」
トントン、と自分の口端を指さし、口元にソースがついてることを指摘する。
この歳で口元汚すのは恥ずかしいので、すぐさま紙ナプキンを取り口にあてがったが「そっちじゃねえ」とのこと。
「・・・こっち?」
「少し上」
拭こうとしたら、俺の顔に手を伸ばして、指で口元を拭った。
思わず体が固まる。
離れていく親指に付いたソースに目が釘付けで、やがてそれは鬼塚の舌に舐め取られて消えてった。
「⋯⋯な、」
「何?」
開いた口が塞がらないとはこの事で、視界の端ではさっき俺たちを噂してたお姉さん達がフォークを落としてた。俺も落とした。
「食えねえなら食ってやろうか」
「い、いやいい!食べれる!!」
こんな、今どきドラマでも見ないこと平然とやってのけるの俺の心臓に悪いからやめて欲しい。しかも男にこんなことするって、ホントのほんとにどうかしてる。
今は自分の顔が赤くなってないか心配で、でも意識するとよけい赤くなりそうなので下を向いて一気にパスタを口の中に入れた。
「ごひほうはま!!」
パン!と勢いよく手を合わせ、コップの中のお冷を一気飲みした。
お会計を済ませるまで隣の席に座ってたお姉さん方がずっと俺達のことガン見してたので、めちゃくちゃ恥ずかしかった。鬼塚は気にもしないで(というか気づいてない?)お店を出る。
もう帰るのかな?と思ったがどうやら違うらしい。家とは別の方向に向かってる。
こうして、自然と並んで歩いてくれるのが、とても嬉しい。思わずにやけてしまう。
「ねぇ、」
嬉しくなって、聞いてしまった。
「前も、こうやってここにご飯食べに来てた?一緒に」
少し気になっただけ。ただの好奇心。
弾んだ俺の声色とは裏腹に、鬼塚は少し間をあけて低いトーンで呟いた。
「⋯お前とは、」
少し歩調が遅くなる。目を合わさずに、鬼塚は答える。
「お前とは、一緒に飯食った事ねえ。一度も。」
ああ、
「⋯⋯そっか」
聞かなきゃよかった。
さっきまであんなに嬉しかったのに、このまま横に並んで歩いてていいのかな、なんて思ってしまう。
手もだんだん温度を失って、行きでは鬼塚のコートのポケットに入ってたのを思い出して、胸が苦しくなる。
手を繋ぎたいとか、そんなことを思ってしまう。
繋いだら、きっと温かいんだろうな、とか。
本当、馬鹿みたいだ。
「龍二、」
背後から女の人の声がした。
振り向くと、立っていたのは俺より背が高い金髪の女の人。
真っ赤な唇に、寒そうな膝上のスカート。綺麗にウェーブした長い髪が、風に揺れてまるでドラマのワンシーンのようだった。
「なに、そいつ誰?弟?」
綺麗な外見の割に口は悪いようです。「あんた弟なんかいたっけ?」といいながら、ハイヒールでコツコツと音を鳴らし近寄ってくる。もちろん鬼塚に。
「久しぶり。」
「⋯⋯。」
「今日こっちに戻ってきたんだけど、金持ってなくて。泊めてくれない?二日でいいから」
鬼塚は返事をしないけど、この人を知らないわけでもなさそうで。
俺と鬼塚の間に割って入り、鬼塚の腕にスルスルと細い腕を絡ませ、上目遣いで話す。
もう完全に、どこからどう見ても美男美女のカップルで。
俺は2歩下がって二人を見てた。
鬼塚がどう返事するのか怖くて、その場に立ちすくんでた。
この2人にとって、今の自分は完全に背景だ。
主役を引き立てるエキストラと同じ。なら、もう居なくなった方がいいか。
邪魔だって言われる前に。
「おっ、おれ、先に帰るから!」
二人の後ろ姿に向かって言った。それから走った。家に向かって。
「ばいばーい」と女の気力のない声がする。
もういいや。
もういい。
わかってたし。俺なんか、隣に並んでても不自然なだけだってことくらい。
ならいなくなった方がいいじゃんか。
さっきの「お前とは、一緒に飯食った事ねえ」って言葉がループする。
そりゃそうだ。
当たり前だ。
こんな、俺となんかいても楽しくないだろうよ。
今日のだってただの気まぐれで、ポケットに手を入れてくれたのだって誰にでもやってることで、俺が特別な訳じゃなくて、ただ、ただ、
俺が鬼塚を好きなだけ。
隣を歩くことさえ特別に思ってたのは、俺だけ。
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