アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
ただいまも言えない 1
-
マンションに着き、エレベーターに乗ると何やら甘い香りがした。
さっき、鬼塚と女の人が並んでた光景を見てドクドクとイヤに脈打ってた鼓動が、少し落ち着いた。
エレベーターから廊下に出ると、うちの前に見覚えのある人物が一人。
髪も肌も色素が薄く、そこら辺に売ってあるようなダウンジャケットを羽織ってるだけなのに、ファッション誌に載ってるモデルのよう。
ってのは絶対本人には言わないけど。
「まきまき!」
向かってくるこちらにすぐさま気づき、パッと表情を明るくさせては大きく手を振ってくる。
今コイツと話すのはちょっと⋯見るからにテンションが今の俺と違いすぎるしどうしたものかと思いつつ、近くへ寄る。
「⋯なに。どうしたの」
「ははっ!面倒くさそうな顔〜。わかりやすすぎやろ」
けたけた笑いながら俺のほっぺをつねる。そして眉間をつつく髪を触る鼻をつまむ。
「もー!!用事ないならどけよ、邪魔なんだけど」
サンタの手を振り払い、背後にある自宅の扉の取っ手に手を伸ばす。
「まーたりゅーくんになんかされたん?」
顔を見なくてもわかる。妙に明るい声色、ニヤニヤ笑いながら言ってるに決まってる。俺が悩んでることの一体何が面白いんだ。
「そんなんじゃない。」
「食い気味やん。ほんまに嘘下手やなぁ」
取手に手をかけひねろうとすると、俺の手の上にするすると白く大きな手が重なった。
背中にじんわり伝わる体温、耳のすぐ側で聞こえる声。
「用事やったらあるで?」
わざと息がかかるよう、吐息を混ぜながら不必要にからだを密着させて呟く。女の子にやったならドキドキ胸きゅん少女漫画の始まりだが、あいにく俺は男。
「俺かてちゃんと行動に移しに来てん。⋯な、家入れてや。」
ぐ、と取手に力が加わる。もちろん、俺は手を乗せてるだけで、中に入りたいサンタが力をかけてるんだろうけど。
「俺はサンタに用事ないし今忙しいんだけど。」
振り向いて睨もうとすると、エレベーターで嗅いだあの甘い香りが鼻をくすぐった。
これ、サンタの香水だったのか。
「もー⋯わかったから、とりあえず入っていいからくっつくのやめろ。お隣さんに見られたらどうすんだ」
「やったー」と言って一歩下がったサンタは、俺が扉を開けるとおとなしく後からついてきた。
靴を脱いでる途中、ふと「サンタって香水つけてたっけ?」と聞いてみると、「あぁ、最近貰った。」と返ってきた。
「いいにおい。俺それ好きだよ」
「ほんまに?もっと近くで嗅いでみる?」
え、と聞き返すまもなく腰に長い腕が回り、胸の中へ引き寄せられる。
確かに、いい匂いだけど暑苦しい。
「⋯ちょっと、そこまで嗅ぎたいわけじゃ⋯」
体を引き剥がそうとすると、余計腕に力が加わりさっきより密着する羽目になった。
「⋯なぁ、あの後なんかされた?」
「はっ?なに、なんのこと⋯」
「俺が家まで送った後、ホラ⋯りゅーくんに、俺が付けた痕見つかったり⋯した?」
唐突にそういうこと聞いてくるから、直ぐに返事出来なくて。
痕ってのは多分、サンタが俺の首根っこ噛んだやつだろう。正直それよりその後に鬼塚にされたキスの痕の方が俺にとっては重要で、ああ、また思い出したら顔が熱くなってきた。
「⋯はは、顔真っ赤やん。バレバレ。」
「⋯ッ!」
そう言いながら、腰に回してた手がゆっくり離れていった。
それが、少し不自然に感じて顔を覗いた。笑っていたのは口元だけで、目は疲れた時のように少し伏せられていた。
どこかで見た事あるようなその表情に、なんたが胸が痛くなった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
170 / 219