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心が砕け散りそうだった。
散々傷ついてきたってのに、また更に追い打ちをかけるかのように。
目頭が熱い。声も涙も出したくないけど、このままことが運んでしまえばせっかく目を覆ってくれたサンタの手を濡らしてしまうかもしれない。
無意識に唇を噛んでたせいで、唇からは鉄の味がした。
ひどいな、ひどい仕打ちだ。
こんなのはもう、たくさんだってのに。
「⋯離れろ」
鬼塚がやっと声を出した。
さっきとは違って、ピリッとした空気が張りつめる。
「なに?何怒ってんのよ」
女の誘うような甘い声色が、驚きと少しの苛立ちに染まる。
「見てわかんだろ」
冷たく、突き放すような声。俺はこの声を知ってる。
「お前の居場所なんかねぇよ。」
キッパリと言い放った。
ピタリと、呼吸が止まる。
「⋯は、はぁ!?何、今更本命にどっぷりとかばっかじゃない!?今まで何人と遊んできたか知ってんだからね!?」
「うわ、」
後ろからサンタのつぶやきが聞こえた。驚いて、じゃなくて、痛い所を突かれたような声。幸い向こうの2人には聞こえなかったようだけど、俺にとって重要なのはそこじゃなかった。
「みんな噂してる。知ってんだからね。散々遊んできたあんたが、本命?冗談でしょ?ほんっと、笑える。」
え⋯⋯?
鬼塚に、本命?
なに、それ。しらない。
サンタが後ろで「あちゃー」と小声で呟く。俺は、嫌な予感しかしなくて。
心臓は不吉を呼び寄せるように、どくどくと血の音を鼓膜にまで響かせた。胸の奥が、引き裂かれるように痛い。
喉にも胸にも、大きな穴を空けられたように、なにも考えられないほど俺の頭は空っぽになっていた。
本命って、もしかしなくても、好きな人のことだ。
鬼塚の。
本当に、自分の馬鹿さに嫌気がさした。
なんだ。
最初から居場所なんてなかったじゃん。
ここに居たいとか、一緒にいたいとかそんなこと以前に俺は鬼塚の気持ちを1ミリも知らないでいた。
好きな、ひと、が居るなら今度こそ本当の本当に、俺なんて存在あってないようなもので、好きな人のことしか考えられないのは、俺もよく知ってる。
知ってるんだ。
「お前の居場所なんかねぇよ。」って、鬼塚があの女の人に言ったはずの言葉にドキッとしたのは、きっとそういうことだろう。
俺が言われたような気がしたんだ。
言われたらどうしようって、苦しくなるの分かってたからなるべく考えないようにしてたことを、耳にしたから。
こんなに、苦しいものだとは。
俺には大事な部分がまるで見えてなかった。
なんだ、俺はもう住む家が無くなったも同然じゃんか。
そうか。
⋯そうか。
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