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ただいまも言えない (鬼塚 side)
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はやく、はやく自分のものに。
誰かに奪われる前に。
ちょっとやそっとでは消えないような深い場所に、大きな傷跡を付けて。
俺のことしか思い出せないように。
もし無理やり犯したら、他のやつの所に行かなくなるだろうか。なんて、今となっては理解できないような幼稚な事を考えてしまったのは、一時の間違いなのだろうか。
「おれだって好きな人がいるんだから」
って、そんなこととうに知っていた。
なのに言われた瞬間、体をナイフで切り刻まれるような鋭い痛みが走った。
今、こいつの目の前にいるのは俺で、たった今体を触ってるのもキスをしているのも喘がせてイかせたのも俺なのにこいつの頭ん中はいつもその「好きな人」でいっぱいで、そんなことはとっくに気づいてたはずなのに。
今まで何度か耳にした、あいつが言う「好きな人」は昔とは別人なんだろう。
ならもう一緒にいる理由は無いと、今までの自分なら簡単に切り離していただろうに。
恐怖に怯える目を見た瞬間に、胸の中央に大きな穴ができたみたいで、ろくに声も出なかった。
そうだ。もうこいつの視線が俺に向くことは無い。既に別の誰かを見てる。
頬を赤く染めるのも、嬉しそうに名前を呼ぶのも、自分じゃない。
たったそれだけのことなのに、何故こんなにも気分が優れないんだろうか。誰かに好かれる好かれないなんて今まで気にしたこともなかったのに。
考えるより先に家を出た。
適当に羽織ったモッズコートのポケットにスマホのみを入れて、財布もバイクのキーも机の上に置いたまま。とにかく、胸の中央に空いた穴を埋めようと、足早にただただコンクリートを蹴るように歩いた。
最後にあいつの笑顔を見たのはいつだったか。
いつも俺には怯えた顔しか見せないから、思い出せない。はあ、と息を吸って吐く度ガラス片でも吸い込んだかのように胸の奥がズキズキと痛む。
本当は、怯えさせたいわけじゃない。怖がらせたいわけじゃない。自分のことで頭を満たして欲しい。
顔を近づければ肩を震わせて、「俺のこと好きじゃないくせに」と言う。
傷つけてしまう。
「好きでもないのにこんなことをしないで欲しい」と、目から雫が落ちるのを、止められないでいる。
違う。そうじゃないだろ。
なんとも思ってなかったらこんなにも長期間の間、近くに置いているはずがない。
気づいてはいるのに。
自問自答を繰り返して、あいつの姿が頭をよぎる度、立っていられないほど苦しく胸を締め付けられる。
握った手は細く、冷たく、身体を寄せた時の肌のにおいも体温もいまだに鮮明に覚えている。手のひらにはまだ感覚が残っている。
荒い呼吸、すすり泣く声、突き飛ばされた時の、喪失感。
全部が脳裏に焼き付いて、これでもかというほど俺を内側からえぐっていく。
苦しいのも少しはマシになるだろうと思って、公園にあったベンチに腰掛けた。ただ座ったつもりが、倒れ込むように身体をベンチに打ち付けた。
これは数時間は起き上がれないだろうと、諦めて瞼を閉じた。
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