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扉を開けると、カーテンの隙間から月の明かりが差し込んでいた。見つけてくれと言わんばかりに、ベッドの辺りだけが照らされている。
膨らんだ布団の隙間から、小さな寝息が立っている。
扉を閉め、鍵のバーを音を立てないようにゆっくりと回転させた。
ベッドに足を運ばせ、膨らみに手をかける。
「ん・・・」
顔まで覆っていたシーツをずらすと、赤く腫れた目と寒そうに肩をすぼめる小さな姿があらわになる。
俺の部屋で、俺のベッドの上で、背中を丸めすやすやと寝こけているこいつは、布団をずらされ月明かりが眩しいのか顔をしかめていた。
それに、よく見ると何か、布を両手で抱いている。それが数日前着ていた自分の服だということに気づくのに、そう時間はかからなかった。
一瞬、思考が固まる。
何故俺の服を大事そうに抱きしめて寝ているのか。
何故、俺の部屋で、ベッドで、目を腫らしているのか。
ぞくぞくと湧き上がる、正体不明の疼き。欲。考えるより先に手が動いていた。
ベッドに腰かけ、頬を隠す前髪を梳かす。
こそばゆいのか、小さく唸りながら抱いていた服に顔を埋める。
ふつふつと湧き上がる、どす黒い欲。
今のこの状況。こいつの寝息、動きひとつで、抑えていた情欲を刺激される。「人のベッドで寝てんじゃねえよ」、「服、シワになるだろうが」が、通常時の俺の反応だろう。
だがどうだ。
微かに香る風呂上がりのシャンプーの匂いと、体温と、肌と、規則正しいやわらかな寝息。
今、俺は、
思わず溜め息が出る程に、笑いが零れそうな程に、目の前でのんきに寝ているコイツに触れたいと思っている。
服を剥いで口付けてどこもかしこも縛り付けて、ここから出られないようにしてしまおうか。
他の奴の名前など口に出せないように、きつく塞いで、痕を付けて、他の事など考えられないように。
ベッドが軋む。
自分でも無意識のうちに、体を近付けていた。
小さな身体の横に置いた手が、シーツに沈んでいく。もう片方の手で薄い肩を押し、強制的にあお向けにさせる。
首元の空いた大きめのシャツ。
無防備に浮き出た鎖骨。月明かりに照らされる白い肌。
薄ピンクの艶やかな唇を親指でなぞれば、ふい、と顔を横に逸らす。その仕草さえも、膨張しきった欲を刺激するのには充分で。
動かないよう顎を固定し、無理矢理口付けようとしたその時。
「・・・ん、」
赤く腫れた瞼が、重たそうに開かれる。
眉をしかめ2、3度瞬きをした後、ぱちりと目が合った。
「・・・に、づか・・・?」
とろんとした、今にも二度寝しそうな眠そうな目で、甘く掠れた声で、もう一度口を開く。
「ゆめ・・・?」
ゆっくり、俺の方へ伸びる手を、掴んでベッドに押し付けることも出来たのにそれをしなかったのは多分、
「・・・ゆめかぁ・・・」
そう言って俺の頬を、髪を、形を確かめるように触る手つきがこそばゆくて、ひんやりと優しくて、「夢か」と呟きながら悲しそうに笑うこいつが、どうしようもなく愛おしい。
「・・・まき、」
笑ったと思えば、今度は苦しそうに眉をひそめ、俺の頬にあてた手をゆっくりと首の後ろへ回した。
先の読めない行動に、されるがままに引き寄せられる。
「おに、づか・・・」
甘く、とろけそうな声で、俺の名前を呼ぶ。
保健室で、赤髪の奴を呼んだ時とは違う。どこか苦しそうで、時々何かを詰まらせるような、息を殺して泣いているような声だった。
「・・・いか、な・・・で、」
上手く聞き取れない。首の後ろに回った手に、ぎゅっと力が入る。
「・・・お、にづか、」
何度も、俺の名前を呼ぶ。
今にも泣き出しそうな弱々しい声で、何度も、何度も。
呼ばれる度に、胸の奥、心臓の辺りが、握り潰されているように痛む。
触れれば壊れてしまいそうな、小さく脆い身体。密着して再確認する体格差が、耳元の呼吸が、全てが愛おしくて。
ただ、こういう時にどうすればいいかを、俺は知らなかった。
抱きしめ返せば潰してしまうだろう。それほどまでに、今の俺には自分を抑えられる余裕が無い。
余裕が無いにも関わらず、こいつは、あろうことか俺に抱きついて何度も名前を呼んで、襲われても仕方がないこの状況でまだ寝ぼけている。
いっそ、このままぐちゃぐちゃに抱き潰してしまおうか。
そう、思った矢先。また口を開いてぽそぽそと何かを呟いている。
「・・・ぃ、のに、」
上手く聞き取れず、なんと言ったか聞き返そうとした。
「まき、今なん・・・」
体を起こし、目を合わせようとしたその時。
するりと首から解けた手が、再び俺の頬に触れた。
「・・・ゆめ、なら、
このまま、覚めなきゃいいのに・・・」
ぼとりと、力尽きた腕がシーツに落ちる。
再び寝息を立てる姿を前に、俺は、動けずにいた。
「覚めなきゃいいのに」って、何だ。
確かに俺の名前を呼んで、頬に触れて、「夢か」と、言って、また名前を呼んで。
あまりの情報量に思考が停止する。
まるで、俺の帰りを待っていたかのような口調で、「夢なら覚めなきゃいいのに」と。
違うと分かっているのに、俺ではないと理解しているのに、声も表情も俺に触れる不器用な手つきも全て、俺を求めているようで、
「好きだ」と、言っているようで。
もう一度目を覚ます前に、
甘く名前を囁かれる前に、
自分の、我慢がきかなくなる前に。
音を立てないよう、静かに、部屋を出た。
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