アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
2
-
胸の奥がズキズキと痛む。
わからない。なんの痛みだこれ。
いつも通り歯を磨き顔を洗い、洗濯機を回す。一日が始まるスイッチがいつもならもう入っているはずなのに、如何せん気分が重い。
冷えた指先を温めようと、お湯で洗い流した。なのに手のひらは不健康に白いままで、少しも温まりはしなかった。
日常の全てが不安に変わっていく。
今までなんとも思わなかった低体温症も体の弱さも改めて実感するようになった。全身に重たくのしかかる何かが、日に日に増していく。
そのうち潰れて死んでしまうんじゃないかと、また不安が募る。
朝ごはんを食べようと洗面所を出たと同時に、来客のチャイムがなった。『ピンポン』と家中に響く高音には、あまりいい思い出がなく出ようか迷ってしまう。
「龍二ぃ!開けてー」
そら来た。
もう何回目だ。あいつの女関係のせいで俺は何回迷惑を被ったことか。
ドンドンと扉を叩く女。音の振動が、募り募った焦りと不安を煽る。
開けたくない。だけど、足は玄関へ向かう。
開けたらなんて言おう。鬼塚の弟です、とでも言おうかな。もし、扉の向こうの女の人が鬼塚の彼女だったら、俺は不安や悲しさを隠せるだろうか。
頼むから、ここに鬼塚なんて居ないから諦めて帰ってくれ。
そう思いながら、取っ手に手を添え、ぎゅっと握る。
わからない。
ずっとわからないままだ。
なのに待ち続けてる。多分、俺も扉の向こうのこの人も変わらない。
こんなことを俺は、いつまで続ければいいんだろうか。
目の奥が熱い。
ぐっと顔に力を入れ、取っ手を捻ろうとした時。
自分のよりも一回り大きな手が、自分の手の上に重なった。
え、と思考が止まる。
背中に感じる体温に、息を飲む。
「龍二ぃ!いるんなら開けなさいよ!!」
甲高い声が、だんだん遠くなっていく。
後ろを振り向こうにも、身体が固まって動けない。
ただ、自分の手を包む大きな手が、目の前にあるだけ。
「開けねえよ。帰れ。」
耳元で聞こえる低い声。
どくん、と一回、大きく鳴る心臓。
なんで気が付かなかったんだろう。
足元には、自分の靴の横に大きな靴が並んでる。
他の音が聞こえなくなるくらい、自分の心臓の音が大きく速く鳴っている。
ばくばくと、あたたかい体温に包まれながら。
この後、女の人は何度か叫んだんだろうが、声が遠く聞こえて何を言っているか分からなかった。カツカツとヒールの音は遠ざかり、玄関には自分の心臓の音だけが鳴り響く。
手が小刻みに震え、何か言おうにも声が出なかった。
「まき、」
どくんと、また大きく脈打つ胸。
だめだ、その声で呼ばれると俺は、泣きそうになる。
はぁ、と背後で息が漏れるのが聞こえた。そして、手を重ねたまま俺の肩に頭を乗せる。
俺は、鬼塚が何を言いたいのかが分からなくて、ただ鬼塚に触れているところが熱くてどうしたらいいのか分からなかった。
「・・・俺に、触られんのは嫌か?」
甘く、少し掠れた低い声が心臓を貫く。内容が頭に入ってきたのは少し後で、ちょっと考えてからブンブンと頭を横に振った。
すると、重なっていた手を離し俺の腰に手を回した。
「これは?」
鬼塚の太い両腕が腰に巻き付き、耳のすぐ横には鬼塚の顔があって、正面の扉は俺の逃げ道を塞いでいる。
顔が熱い。鬼塚と密着している腰も背中も、全部が溶けそうに熱い。
緊張とか恥ずかしさとかがぐちゃぐちゃに混ざって爆発しそうなのに、離してって言って逃げたいのに上手く声が出ない。
「まき、」
耳元で名前を呼ぶ。
ぞくぞくと、くすぐったいような気持ちいいような、おかしな感覚に襲われる。
これ以上はダメだと思い、首を横に振った。
早く離してって言いたいのに、やはり声が出ない。いつも触ってくるのに許可なんて取らないくせに。無理やりしてくるくせに。
やっと腕が離れたかと思い、はぁ、と一呼吸つくと同時に肩を捕まれ、正面を向くよう扉に押し付けられた。
冷たい金属の扉が、薄着の背中を凍らせる。
目の前には俺の肩を掴んだままの鬼塚がいて、多分、俺を見てるんだろうけど、怖くて目を瞑ってしまった為現状が理解出来てない。
「・・・前に、お前が寝てた時、」
うっすら、目を開く。
どうやら殴られる訳では無いと安心した。
「俺の部屋で寝てた時のこと、覚えてるか。」
え、と予想外の質問に声が出た。
「ソファーで潰れてたお前を、俺がベッドまで運んで、その後俺に何されたか覚えてるか。」
ブンブンと顔を横に振る。
前髪で覆われた鬼塚の目が、俺の方を真っ直ぐに睨んでいた。これから噛み付かれるか捕食されるかするんじゃないかってくらい、鋭い目付きで。
「襲ったんだよ。」
「お、そ・・・っ?」
「こういう風に。」
視界が暗くなる。
あ、鬼塚のにおいだ。って、理解した頃にはもう遅かった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
191 / 219