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はぁ、と白い息を吐きながら、何で家の前で立っているのかと俺に問う。
鍵を忘れたと答えると、また大きく目を見開いて、駆け足で扉の鍵穴に鍵を差し込んだ。
あかりを消して朝家を出た玄関は、暗く、ほとんど何も見えない状態だった。
目の前の小さな背中は、壁にある廊下の電気のスイッチを探っている。ふわふわと宙を行ったり来たりする手のひらは、少しぎこちなく、緊張しているようで。
今朝もそうだ。
近くに居るだけで過敏に反応して、少し触れば頬を紅潮させる。それがなんとも、愛おしくて。
触れたい。
今俺がここで名前を呼べば、どんな顔をして振り向くだろうか。
考える前に体が動く。
気づけば俺の腕は、目の前の細い腰を抱いていた。
ぴたりと動きを止めた身体は、みるみるうちに硬直し、体温を上げていく。
「まき、」
と耳元で呼べば、ぴく、と肩が揺れる。
ん、と小さく息を飲む音が聞こえる。俺の声から逃げるように顔を俯け、黙り込む。
その反応、挙動全てが俺の欲を刺激する。
「お、おに・・・っ、」
「こっち向け。」
か細く鳴く声。
恐る恐る言われた通りに振り向く、強ばった肩。
恥ずかしげに視線を逸らす瞳は、ゆらゆらと困惑を映しながらもしっかりと俺を意識している。
それを視認するや否や、衝動的に身体が動いていた。
壊さぬように、強く力を入れすぎないように、まるで割れ物に触れるかのようにして、優しく肩を抱き寄せた。
ふわふわと揺れるやわらかい髪が、頬を掠める。
このまま無理やり口付けて、熱と欲を帯びたこの手で身体中をまさぐり、過敏に反応して俺を求めながら喘ぐ姿を見たい。
今、まさにこの手で、指で、奥深くまで触れてみたい。ドクドクと、血管の中の熱い血が全身を巡っていく。
それに反するように、冷静になれと理性が本能に語りかける。
大事に、大事に、傷つけないように。言い聞かせながら、自身の中の湧き上がる情欲を押さえ付ける。
荒ぶる思考を制御しながら、腕の中でトクトクと足早に鳴る鼓動に耳を傾けた。
小さな身体に、薄い肩。
もう、このまま俺のものになればいい。
こうして俺の事だけを意識していればいい。
その赤く染った頬で、震える唇で、「好きだ」と一度言ってくれるだけでいい。
それだけが、その一言だけが欲しい。
この感情は何だ。
胸が張り裂けそうに痛い。まるで、全身に電流が流れているみたいに、茨で心臓を縛られているみたいに、痛い。
「・・・お、にづか、あの、」
耳元で聴こえる、残り少ない力を振り絞ったような、か弱い声。
「は、離して・・・っ、おれ、」
あぁ。
聞きたくない。まだ触れていたい。
その先を言うな、
言うな、
「・・・おれっ、好きな人、いるんだってば」
「こういうこと、されるの、ほんと・・・」
「こまる、から・・・」
途切れ途切れになる、震えた声。
息が止まりそうなほど、正体不明の何かに胸の奥が締め付けられる。
「離して・・・お願い、」
どうしても、思い通りにはならない。
この目は今も俺じゃない誰かを映している。
俺じゃない誰かに、思いを馳せて、俺じゃない誰かを求めている。
腕を解き、身体を離し、静かに息を吐いた。
この感情は苛立ちなのか支配欲なのか、静かに内臓を蝕んでいく痛みは止むことはなく。
またこいつに手を出す前に、歯止めが利かなくなる前に、俺はその場を後にした。
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