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リビングの明かりをつけ、背負っていた学生鞄を床に放りソファーに腰を下ろす。
体が重い。
全身の感覚が鈍く、思うように動かない。心臓辺りは痛いまま、触れた時の感触だけが指先に色濃く残っている。
もし、過去の自分に戻れたら。
あいつが記憶を失う前に戻れたら、結果は違っていたんだろうか。
思考をどう巡らそうとも、苛立ちと後悔と、倦怠感に襲われる。
何をどうしたらここまで欲深くなるのか。
自分でも全く分からない。
ただの同居人なら、こんなに感情が左右されることは無いはずだ。こんな、欲にまみれた手で触れたいとも思わないはずだ。
俺は、ずっと自分が分からない。
多分あいつに会ってからずっと。
どうしたらいいのか、どうしたら傷付けずにすむのか、何故思い通りにはならないのか。
今まではそんなこと、意識したこともなかった。だからわからないんだろう。
自分のものにはならないと分かっていながらも、どこまでも貪欲で支配的な劣情。
自分の精神すら己で制御出来ないのか。
まったく、自分で自分に呆れている。
はぁ、と腹の底の鬱憤を根元から吐き出すようにため息をついた。更には、気を紛らわそうと風呂に湯を貯めて、リラックス効果のある入浴剤まで入れて、どうにか腹の中の鬱屈したどす黒い感情を薄めようとした。
服を洗濯機に放り、シャワーでかけ湯をした後ゆっくりと湯船に浸かった。
白く濁った湯からは、刺激のない柔らかな春の花の香りがする。
目を瞑り、静かに呼吸をした。
心が、徐々に落ち着きを取り戻していくのがわかる。意識がふわふわと遠のき、呼吸も一定化する。
暫くは寝落ちていただろう。
心地の良い香りとあたたかい湯に浸かりながら、意識を手放す。
再び脳が動き出したのは、5分ほど経った後だった。
ちゃぷん、と近くで音がした。
はっと目が覚め、壁にもたれかかっていた頭を起こした瞬間、目の前の光景に思考が停止する。
すぐそこ、目と鼻の先に、ふわふわと揺れる髪の毛。丸い頭。
俺の、開いた両足の間にすっぽり収まる小さい身体。
「おい」
何してんだ、お前、と後に続ける。
びく、と大袈裟に揺れる肩。恐らく気づかずに入ってきたんだろう。
ふざけるな、と、頭を抱え現状を整理する。いや、それよりこいつ今のこの状況わかってんのか。
こっちは訳も分からない出処も知れない欲求抑えてなんとか冷静になろうと理性保ちつつ余計なこと考えないようにしてたのに。
よりにもよって裸で、俺の目の前に現れるか。普通。
「な、なんでここにいるの・・・」
「こっちのセリフ。」
拒絶しときながらこの仕打ちはもう襲われに来ましたって言ってるようなもんだろ。
呆れて頬杖をつく俺を視認すると、みるみる青ざめる間抜け顔。
「ごごごごごめんなさい今すぐ出ますほんと申し訳ない!!」
この場から逃げようと立ち上がる肩を反射的に鷲掴み、浴槽へ引き戻す。
逃げる隙を与えぬように腰を抱き、ずるずるとこちらへ引き寄せ、動けないよう固定する。
「あ、あああの鬼塚さんおれ、出たいんですが、」
「は?」
馬鹿かお前。と口に出そうになるのを堪え、息を飲む。こんな状況で近寄ってきた獲物を誰が逃がすかよ。
「いやあの、気付かずに入ってしまってほんと、申し訳なく思ってますので・・・」
「好きな人がいるから」と拒絶し、触れられるのを拒んできたにしては無防備すぎるだろ、と、今まで抑えていた欲がまたふつふつと湧き出してくる。
「ねっ、ねぇ!ほんと、のぼせちゃうから・・・っ」
「今入ったばっかだろ。」
逃げようと体に力を入れようものなら、倍の力で拘束する。熱いせいか、いつもよりも速く、激しく熱い血が頭に流れている。
肌同士が擦れ、密着し、やわく脆い身体を抱く腕は徐々に力んでいく。
「・・・おっ、おにづか・・・っ、あの、」
ほんのり赤く紅潮する頬。
か弱く喘ぐような声も、震える肩も、腰を抱く俺の腕を握り締め、精一杯の抵抗を見せる細い指も全て、逆効果だ。その仕草全てが、情欲を逆撫でする。
「・・・おに、づかぁ・・・っ!」
離して、とでも言うように、細く微かな声にならない声が、風呂場に反響する。
赤らむ肌はしっとりと湿り気を帯び、無意識に色気を放っていた。
逃げ場をなくしてもなお、なんとか抵抗しようと顔を見られぬよう俯く頭。だが、隠しきれない耳もうなじも、髪の隙間から覗く頬もこれでもかという程に赤く染まっていて。
「・・・顔、真っ赤。」
そう言われてピクリと反応する身体が、どうしようもなく愛おしくて。
俺の声に、言葉にどんどん過敏になっていくこの小さな身体を、これから、どうしてくれようか。
「な、ん・・・っ」
ちゅ、と小さく鳴るリップ音。
気がつけば、うなじに唇を落としていた。
「・・・まき、」
ちゅっ、ちゅ、と続けて唇を、首に、肩に押し付ける。
その度ぴくぴくと跳ねる身体がなんとも愛おしくて、されるがままにただじっと俺を感じて喘ぐ声が、より一層行為を激しくさせる。
「・・・ぁ、ん・・・ッ!」
甲高く鳴る声にまた、嗜虐心が刺激される。いっそこのまま、痕がつくまで噛み付いてしまいたい。
溢れる激しい欲求と同時に、この、力を入れれば容易く壊れてしまいそうな身体を大事に抱きしめようとする2つの意識が混同している。
もっとじっくり撫で回して、思考も身体もぐちゃぐちゃに犯してしまいたいと思う中で、優しく、優しく、傷つけないように大事に触れて抱きしめていたいと、思ってしまう。
「・・・まき、顔が見たい。こっち向け、」
ふるふると顔を左右に振る頭。
欲に耐えられず動く自分の手は、抱えていた細い腹から内ももにかけてを、じっくりと撫で回していた。
「あッ!や、め・・・っ、」
咄嗟に腕を掴む小さな手。
その手に指を絡め、持ち上げた手の甲に優しく唇を落とす。
ちゅ、と音を立てて離れる唇を見たまきは、目を丸くした後薄く艶がかったピンク色の唇をわなわなと震わせて、より一層顔を赤らめた。
「ん、な、なにして・・・っ、」
「何が?」
「なに、って、」
「もっとしてやろうか。」
目の前で、意識させるためにわざと手の甲に唇を押し付ける。
手の甲の次は手首、二の腕、首筋、耳、至る所に、ちゅ、ちゅっ、とリップ音を鳴らし痕を付けていく。
抵抗することも忘れた身体は、風呂場に響く卑猥な音の中で分かりやすく固まり、真っ赤に茹でられていく。
「・・・な、ん・・・ッ、」
「口空いてんぞ。」
動きが止まって無防備になった唇に、そっと指を這わせ、口付けようと顔を近づける。
唇が当たる寸前で、ふい、と顔を逸らされる。
「・・・や、だ、」
ぷるぷると震え出す背中。
ぎゅっと眉をひそめ、遠ざかろうとする身体を素直に手放し、今から言われるであろう拒絶の言葉に、息を止めた。
「・・・はず、かし・・・ッ、」
「・・・は、」
「恥ずかし、から、あんまり、くっつかないで・・・っ!」
予想外の言葉に思考が止まる。
てっきりまた、好きな人がいるからと、こういう事をされるのは困ると言われるのかと思ったが違った。
恥ずかしいって、何だ。
「嫌だ」じゃなく、「恥ずかしい」ってどういう事だ。
「こっ・・・、こんな、ふ、太もも触ったりっ、手に、キスするとか・・・っ!ばか!!スケベ!!」
「すけ・・・」
予期せぬ怒号を浴びせられ、呆気にとられている隙に浴槽から出たまきは、俺に背を向け、「もう!」と怒りながら風呂場の椅子に腰を下ろした。
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