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鬼塚 side
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「今日雨降るかもなぁー。」
帰り道、ふらふら横を歩く賛田が呟く。
「雨降る前ってな、昔の傷痛くなるって言うやんかぁ」
「......。」
「オレ全然痛くならんねんけどなぁ。嘘やろあの話。」
返事をしなくても話を進める。いい加減黙れというオーラを発しても通じない。
「あっ!そや、今日廊下でまきまきに会ってんけどな?なんか顔が......」
ぱたり。話が途切れ、歩行速度が遅くなる。賛田はすぅっと息を吸う。
「......忘れた。」
「は?何をだよ」
「財布。と、スマホと定期入ってる鞄。やっばやってもーた......」
「取りに行け。俺は先に帰る。じゃあな」
「ちょっ、正直すぎるやろ!寂しいやんかぁ!!」
鬱陶しいバカは放って、耳にイヤホンを詰めた。
風の音、犬の鳴き声、人の話を全て無くして、
なんにも無い家に帰る。
帰るのは彼女の家でもよかったけど、今は一人になりたい気分だ。
...あぁ、でも。
なんにも無くはないか。
あいつがいる。だから、今まで家に帰らなかった。
忘れたい。
あいつが、俺にぶつけてきた気持ちを全部忘れてしまったみたいに。
あいつが忘れたから、無かったことになった。
俺に対する気持ちも消えた。
もう家にいる理由も無い。だったら追い出せばいいのに、出来ないのが不思議だ。
イライラする。ここ最近、ずっと。
「.........はぁ。」
パタパタっと音がした。
アスファルトに雨が打ち付けられる音。
マンションの自動ドアが開いて、エレベーターには誰かの香水の匂いが残ってる。
......臭い。
家の扉を開けると、同じ香水の匂いがした。
まぁ、だいたい想像はついてたけどな。
ため息をつきながら靴を脱ぐと、何か重量のあるものが足に当たる。
あいつの、通学用の鞄だ。
「龍二っ!やっと帰ってきたァ!もー、彼女を待たせんじゃないわよ。」
「...あ?誰だお前。なに勝手に俺の家に上がってんだ」
「勝手....?じゃあ私の前に入ってたあの子はどうなの?弟なんて嘘なんでしょ?」
「弟...?」
「洗面所に居たから追い出したの。「お邪魔よ」って。」
「......で、お前は何しに来た?」
「やる事なんて決まってるでしょ?私達そういう仲なんだから。」
下品な女は、そろそろ名前で呼んでよ、と付け足して、靴下を脱ぎ始めた。
「ね、したいでしょ?」
「触んな。くせぇんだよお前。」
擦り寄って来る手を払うと、女は少しムッとした表情で言う。
「.....せめて名前で呼びなさいよ。私っ、今まで龍二に一度も......」
" 名前を呼ばれたことがない。"
もう何回目のセリフだ。
俺からしたら、名前なんてどうでもいい。一夜限りの関係でそこまで馴れ馴れしく付きまとってくるな。
興味のない人間の名前を覚えたところで何になんだよ。
うざったい。きえろ。
「.....何よその目。いいわよ?その気になるまで今日は帰らないから。」
無神経。俺が一番嫌いな人種。
まったく、虫唾が走る。
玄関の扉を開け、床に落ちている女のカバンを外目掛けて思いっきり投げた。
「...っ、な、何すんのよッ!!」
「出てけ。」
「...ッ!!」
「早くしろ。」
靴下も、それから上着も、床に転がってるものを外に投げる。
女の持ち物からは全て、あの臭くてキツい香水の匂いがした。
「あああっ!!やめなさいよ!!」
慌てて腕にしがみつく女。
反して俺は、驚くほどに冷めていた。
「...拾いに行けば?」
女は目に涙を浮かべて、そこらに転がったハイヒールを持って出ていった。
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