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もう10時になる。
あいつがまだ帰ってこない。
鞄を置いて、こんな雨の中で。
洗面所には紙袋に洗濯物が詰められた状態で置いてあった。あの女が言うには、俺の「弟」と名乗って追い出されたらしいが。
どこで何をしてるのか。
今日はひとりでいたい気分だったはずだ。
飯を食ってシャワーを浴びて、時計を見るともう11時。
どうせ誰かの家に行ったんだろ。
泊まらせてもらっているか、どこかで野宿でもしてるか。
心配する必要はない。
あいつの方も、俺が家に帰ってこない時、なんとも思ってないだろ。
実際、俺だって何も気にせず遊んでる。
寂しいとか心細いとか、冷たいだとかそんな面倒臭い感情を向けられても興味が無い。
そう言い聞かせるように携帯を眺めて、誰かの着信を待っている。
音が鳴ったら、その誰かの本当の気持ちを聞けて
声を聴いて、感情が溢れて、自分のものにしたくなる。
誰かにそういう感情を向けるのは、苦しい。
忘れたいのに忘れられなくなった頃にはもう遅い。
もし相手が別のやつのところに行ったら。
目の前からいなくなってしまったら。
自分のことを忘れてしまったら。
もし、死んでしまったら。
俺はどうすればいい?
行き場のない虚しさだけが残って、気づいた時にはもう遅いなんてよくあることになったら。
俺は、いつの間にか立ち上がって、
コートを羽織ってテレビを消して、
傘を持って、玄関の扉を開けた。
雨が混ざった風が顔を吹き付ける。
エレベーターが早く来ないのはいつものことで、
いつもと違って異常にイライラする俺は多分普通じゃないんだろう。
何処からあたればいい。
コンビニ?
知り合いの家?
駅か、それとも学校か。
悶々と重たい空気を背負いながら、
2本の傘を握りしめて、マンションを出た。
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