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「拓海」
名前を呼ばれて振り返ると、いきなりユウくんに抱きしめられた。
「よかったな」と囁かれる。耳に息がかかってくすぐったい。
親友の祝福の言葉がうれしくて、胸の奥が熱くなった。
ボクもユウくんの身体を抱きしめ返して、「ありがとう」と言った。
自分の口からちゃんと報告するべきだった、と後悔した。
もしも慧悟さんとつき合うことになった時点に戻れるなら、親友の2人には真っ先に打ち明けたいと思う。
もう一方では、慧悟さんの立場を考えてためらってしまう自分がいる。
そんなことを考えていると、つきんと胸に痛みが走った。
ボクは罪悪感を振り払うように、ユウくんの肩に顔を埋めた。
ユウくんの匂いがする。
慧悟さんとは違う安心感を与えてくれる匂いに包まれていると、咳払いが聞こえた。
振り返ると、慧悟さんが不機嫌そうな顔でこちらを見ている。
「先生、ヤキモチ妬いてるよ」
ユウくんが耳打ちしてくる。
「そうだね。ヤキモチ妬いてるね」
声をひそめて話しているうちになんだかおかしくなってきて、ボクらはくすくす笑い合った。
初めてヤキモチを妬いてもらえたのがうれしくて、いつまでもユウくんから離れようとしなかった。
慧悟さんの「こら!」という言葉と同時に、首根っこを掴まれて無理やり引き離された。
「恋人の前で何やってるんだ!」
本気で叱られる。
慧悟さんの嫉妬するところなんて、初めて見た。
「ごめんなさい」
神妙な表情を作ろうとするけど、皆の前で「恋人」と言ってもらえたのがうれしくて、つい口元が綻ぶ。思わず、ぺろっと舌を出してしまった。
「コイツ、分かってやってるぜ。……先生、大変なのに捕まったな」
それまで傍観していた知紀くんが口を開いたと思ったら、相変わらずのひどい言いようだ。
「村瀬、分かってくれるか」
なぜか、慧悟さんが同調する。
ショックを受けるけど、すぐにお芝居だと分かった。
「な。自分が可愛いって自覚してるヤツがやりそうだろ?」
「そうか。拓海の可愛さはやっぱり作り物か。……もうちょっとで騙されるとこだったよ。村瀬、教えてくれてありがとうな」
「もう、慧悟さんまでひどいよ!」
ボクもお芝居にのって、わざとらしく泣き真似をする。
「拓海、ごめん。泣くなよ、な……」
よしよし、と慧悟さんが頭を撫でてくれた。
ものすごく気持ちいい。
お芝居をしていても、この気持ちよさだけは本物だ。
目を閉じてうっとりしていると、知紀くんの乱暴な言葉が現実に引き戻す。
「バカップル、人前でイチャついてんじゃねぇ!」
低いトーンの声に苛立ちが滲んでいる。
2人して知紀くんのほうをちらっと見るけど、慧悟さんは何もなかったかのようにまたボクの頭を撫でる。ボクもじっと目を閉じておいた。
「いい加減にしろよ!」
ボクらは知紀くんを苛立たせることに成功したようだ。
心の中で舌を出す。
ほんのちょっぴりだけど、仕返しした気になって気分がよかった。
慧悟さんと目が合うと、にっこり笑ってウインクされた。
知紀くんに仕返しをして、やったな、という共犯者への合図だ。
いたずらっ子のようなその笑顔に、ドキッとした。
その瞬間、ボクはまた慧悟さんに恋をしていた。
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