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知紀くんのピアノの練習につき合って音楽室に行くのが、ボクと慧悟さんにとっての楽しみになっていた。
デート代わりというだけでなく、恋人同士として自由に振舞うことを許された貴重な場所だったからだ。親友たちがいっしょでも、ボクらには関係なかった。
その大切な場所である音楽室に、慧悟さんが急に姿を見せなくなった。
理由はすぐに分かった。
ある日の放課後のこと。
校門を出たところで、いきなり名前を呼ばれた。
しかも、女の人の声で、だ。
誰だろう、と訝りながら振り返ると、綺麗な女の人が立っていた。
緩くウエーブのかかった長い黒髪と透けるように白い肌が印象的な、すらりとした女の人がこちら向かってにっこり微笑んでいた。
慧悟さんと同じくらいの年齢だろうか。
「あなた、沢田拓海くんね」
「はい……」
見たこともない人に呼び止められて、身構えていると。
「初めまして、田崎美華子(たさきみかこ)と申します。……私のこと、慧悟さんからお聞きになっているかしら?」
慧悟さんの名前が出てきて、ドキッとする。
嫌な予感しかしなかった。
慧悟さんの名前を親しげに呼ぶこの人のことを、ボクは直感的に嫌いだと思った。
大抵の男の人なら心を奪われるだろうきれいな笑顔を向けられても、ボクはぞっとするものしか感じなかった。それは彼女の笑顔がどこか作り物めいていて、感情が伴っていないように感じられたからだ。
「……慧悟さんと結婚を前提におつき合いをさせていただいてます」
「えっ!?」
いま、なんて言ったの?
慧悟さんと結婚を前提におつき合いって、……何のこと?
そもそも、慧悟さんはボクとつき合ってるんじゃなかったの?
頭の中に?マークがいっぱい浮かぶ。
彼女が直接ボクのところに会いにきたということは、慧悟さんとの関係を知られてしまっている?
どうしよう!
慧悟さんとの関係を、他人に知られてしまった。
心臓がバクバクする。
全身から血の気が引いていくのが分かった。
パニックになりそうなのを堪えるだけで精一杯だった。
働かなくなった頭で対処法をいくら考えても、何1つ浮かんでこなかった。
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