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慧悟さんはボクものです。……あなたには絶対に渡しません!
ボクとしては、牽制のつもりだった。
堂々と宣言したのはいいけれど。美華子さんが冷静なだけに、ボク1人熱くなっているのが、急に恥ずかしくなった。
やっぱり、大人の人には敵わないな、と思う瞬間だ。
女の人同士では、こういう修羅場的なことはよくあるのだろうか。
だとしたら、つくづく女性に生まれてこなくてよかったと思う。
「ねえ、冷静に考えてみて。……あなたに勝ち目があると思う?」
それまで黙って聞いていた美華子さんが、口を開く。
口角が上がっていて、その表情は優位に立っている人のものだった。
「いいえ。……でも、慧悟さんを思う気持ちでは絶対に負けません」
自分で言って、虚しくなる。
ボクには、慧悟さんを好きだという気持ちしかない。
何の武器も持たず、素手で戦おうとしているようなものだと、改めて気づかされた。
「私の前で堂々と宣言したわりには、それだけ?」
美華子さんは、盛大にため息をつく。
どんな嫌みよりも効果的に思えた。
「……」
ボクは俯いて唇を噛んだ。
「田崎さん、お見合いの話は正式にお断りしたはずです。……俺の可愛い拓海を、あんまり苛めないでやってもらえませんか」
いきなり背後から声がして、ボクは反射的に顔を上げた。
振り向かなくも、慧悟さんだと分かった。
だけど、ボクが知っている慧悟さんの声とは違って、少し硬い印象を受ける。
今度は、美華子さんが唇を噛む番だった。
「どうして、ここにいると分かったんです?」
慧悟さんは、美華子さんの質問には答えなかった。
「もう、話は終わりましたよね。……拓海、失礼しよう」
慧悟さんはボクの肩を掴んで、席を立たせる。
肩に置かれていた慧悟さんの手が、移動する。ボクの手首の辺りを掴むと、いきなりその場から走り出した。
突然すぎて、一瞬何が起こったのか分からなかった。転ばないようするだけで、精一杯だった。
「楠見さん、待ってください!」
慧悟さんを呼ぶ美華子さんの声が、切なげに聞こえた。
美華子さんは本気で慧悟さんのことが好きだったんだなと、このとき初めて気がついた。
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