アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
<お引越し>
-
……ピンポーン……ピンポーン……。
チャイムを鳴らして、しばらく待つ。
ピンポン、ピンポン、……ピンポーン……。
応答がないので、今度は連打してみた。
やっぱり応答がない。
日曜日の午後、ボクと母さんは引っ越しの挨拶に回っていた。
最初の1軒目は、留守のようだった。
6室しかないアパートの、僕の部屋がある1階は真ん中の1室が空き室なので、奥のその部屋しかなかったけど。
2階の3軒に挨拶をすませてから、もう一度回ることにしたのだが、やはり留守にしているようだった 。日曜日なので、出かけているのだろうか?
ボクが、もう一度チャイムに手を伸ばそうとすると。
「ユウ、止めなさい! ご近の所迷惑になるから、出直しましょう……」
母さんに止められた。
あきらめて部屋に戻ろうとしたときだった。
「……どなた?」
少しかすれた、不機嫌そうな男の人の声がした。
(寝起きかな? 悪いことしちゃったな)
部屋のドアがガチャリと開く。
大学生くらいのお兄さんが顔を出した。
男の人にしては色の白い、やさしそうな顔立ちの人だった。
母さんの隣にいる僕を見て、なぜだか、驚いた顔をしていた。
「あ、こんにちは。……お騒がせしてすみません」
母さんが申し訳なさそうに、頭を下げる。
「101号室に引っ越して来た、黒崎と申します。こちらは息子のユウです。……あの、つまらないモノですが……よろしくお願いします」
母さんがスーパーで買ってきた粉末洗剤を差し出した。
それはラッピングされ紙袋に入っても、一瞬で中身が何か分かるほど強烈な芳香を放っていた。
もう一度頭を下げる母さんに合わせて、僕もペコリと頭を下げる。
「ご丁寧にありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします」
お兄さんの顔がほころんだ。
きれいな笑顔だった。……まるで、花のつぼみがゆっくりと開いていくみたいな。
片方の口の端から、白く輝く八重歯がのぞいて見える。
その瞬間、僕の心臓がドクンと跳ねた。
隣で母さんが、息を呑んだのが分かった。
全速力で走った後みたいに、僕の心臓がドキドキいっている。
しばらくして、母さんがこちらを見ていることに気がついた。
どうやら僕は、そのお兄さんに見惚れてしまっていたらしい。
それが、僕の初恋の人――川相雅樹(かわいまさき)さんとの出会いだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 90