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<誕生日>
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目を覚ますと、うす暗いところにいた。
何度かまばたきをするうちに意識がはっきりしてきて、自分がふとんのいるのが分かった。
夢を見ていた気がするけど、目が覚めると何も覚えていなかった。
「あっ!」
ボクは小さく叫んでふとんから跳ね起きると、急いで部屋の明かりを点けた。
勉強机の上の目覚まし時計は、7時半になろうとしていた。
今年も駄目だったか……。
ボクはがっくりと肩を落とした。
1月1日は、ボクの誕生日でもある。
この日にボクが生まれたのを誰よりもよろこんだのは、死んだ父さんだった。
本当は大晦日に生まれるはずだったけど、どうしても元日に生まれてほしかった父さんは、お腹の中にいるボクに向かって毎日のように話しかけたそうだ。
「生まれて来るのは1月1日だからな。間違えて大晦日に生まれて来るなよ!」
父さんの言うことを素直に聞いたかは分からないけど、ボクは大晦日に生まれるのをなんとか我慢して、新しい年になって数分してから生まれた。
願いどおりに生まれて来たボクを、父さんは「親孝行な子だ」と大よろこびしたそうだ。
母さんからその話を聞いて、ボクは自分の誕生日になる瞬間を起きて迎えたいと思うようになった。
だけど、今年もまた眠っているうちに誕生日を迎えてしまった。
新年早々、落ち込む。
「ユウ、起きてる?」
襖が開いて、母さんが顔を覗かせた。
「母さん、明けましておめでとう」
ボクは気持ちを切り替えて、明るく新年の挨拶をした。
「明けましておめでとう。……お雑煮が出来たから食べましょう」
「うん」
着替えて居間に行くと、雅樹さんが来ていた。
「雅樹さん、お早う。遅くなってごめん。……急いで顔洗ってくる」
慌てて洗面所に走った。
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
顔を洗って居間に戻ると、改めて挨拶をした。
「明けましておめでとう。今年もよろしく」
新年の挨拶はしたけれど、「誕生日おめでとう」とは言われなかった。
今年は母さんにも忘れられている。
誕生日と言っても、特別なものは何もない。
ただ、お年玉はもらえる。
ケーキはクリスマスに食べるし、お正月にはおせちがある。
何もないのは分かっているけど、やっと13歳になったのに「おめでとう」と言ってもらえかったことがショックだった。
それに、もう1つショックなことがあった。
「母さん、何これ?」
お雑煮のお椀を受け取ったはずなのに、白っぽい液体が入っていた。
確かにお餅は入っているようだけど、白い色をした汁に茹でた三つ葉を結んだのが浮いていた。 大根とにんじんだろうか? 輪切りを半分にした野菜も入っている。
「京風のお雑煮よ。……今年は雅樹さんといっしょだから、芦屋のお宅と同じ京風のお雑煮にしたの」
「笑子さん美味しいですよ」
雅樹さんは満足そうだ。
「なんで白いの?」
「白みそで作るから白いのよ。……本当はね、お雑煮の中に里芋の親芋……頭芋(かしらいも)って言って、こんなに大きいのを1人に1個使うんだけど、近くのスーパーで手に入らなかったから里芋にしたの」
母さんが両手の指で作ったまるは、ソフトボールくらいの大きさはあった。
しかも、1人でその大きなお芋を1つ食べるそうだ。
「うちはふつうの頭芋じゃなくて、えび芋の親芋を使っているんです」
「へえ、そうなの。えび芋ねぇ。いもぼうで使ったことがあるけど、お雑煮にしても美味しそうね。来年は奮発して試してみようかしら」
里芋でよかったと思った。そんな大きなお芋、ボクには全部食べられそうにない。
「……お餅も焼かずに入れるのが京風なんだけど、雅樹さんのお祖父さまが焼いたお餅のほうがお好きだそうだから、焼いたお餅にしてあるの。にんじんも金時にんじんって赤い色のものを使うんだけど、ちょっとくせがあって、ユウが食べられないかもしれないからふつうのにんじんにしてあるの」
「へえ、そうなんだ」
母さんは料理好きで、いろんなことをよく知っている。
恐る恐る食べてみると、京風のお雑煮もなかなか美味しい。
お味噌が甘いのにも、びっくりだ。
お雑煮を食べていると、昨夜のことを思い出した。
「ねえ、雅樹さん。昨夜、ボク何時頃まで起きてた?」
「11時頃かな?」
「重いのに、雅樹くんがユウを抱きかかえてお布団まで運んでくれたのよ」
誕生日まであと1時間だったと分かって、余計に落ち込んだ。
母さんに教えられて、何となく記憶が甦ってきた。
雅樹さんに抱っこされて布団まで運ばれたなんて、恥ずかしすぎる!
新年早々、いろんな意味でショックを受けた。
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