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先生は自分の向かいの席を指して、座るよう勧めた。
でも、ボクは正面ではなく、斜め向かいに腰を下ろす。
「素敵なお宅だね」
「いえ、古いだけです……」
なんて愛想がないんだ!
自分でも嫌になる。
「いつ頃建てられたの?」
「明治時代です。……でも、うちに移築されたのは、昭和の始めになってからです」
「そうなんだ。歴史のあるお宅なんだね」
「……」
会話が続かない。嫌な間が出来てしまう。
先生はボクとの会話を続けようと、親友2人の話を持ち出した。
「沢田は黒崎と村瀬の2人と仲がよかったな?」
「はい」
「村瀬はムードメーカーだし、黒崎は見かけによらずおっとりした性格、……見かけによらずと言ったら、沢田もそうだ。……しっかり者で、3人の中ではお兄ちゃん的存在だしな。3人ともまったく違う性格をしているのに、妙に馬が合うんだな」
楠見先生がちゃんとボクのことを見ててくれた!
それだけで、しあわせだった。
どうやら、ボクは意外と単純に出来ているようだ。
「沢田もお父さんの跡を継いで、いずれお医者さんなるのか?」
「そうなると思います」
「がんばれよ」
「はい」
「……先生が病気になったときは、沢田に治してもらわないとな」
「任せてください!」
ボクの声はさっきまでと違い、明るかった。
ノックする音がして、ドアが開いた。
「……先生、お待たせして申し訳ありません」
母さんがやっと来た。
楠見先生と2人っきりの時間は、呆気なく終わった。
意外と楽しかった。
最初こそ落ち着かなかったけど、もう少し先生といっしょにいたいと思った。
「拓海もいなさい」
席を立って応接間を出て行こうとしたら、母さんに止められた。
「ボクはいい。……じゃあね、先生」
魔法が解けたみたいに、また愛想のないボクに戻っている。
でも、素っ気ない態度とは裏腹に、ボクの心臓はバクバクいっている。緊張も戻っていた。
「すみませんね、愛想のない子で……」
「そんなことありませんよ」
母さんと話している先生が、応接間を出て行くボクのほうをちらっと見た。
目が合った。ドキッとする。
先生、それ反則だよ!
分かってやっているんだとしたら、性質が悪い。
ボクは変な汗をかきながら、自分の部屋に戻った。
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