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<とある日曜日>
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日曜日だと言うのに、めずらしく何の予定も入ってなかった。
せっかくの快晴なのに、することが何もなくてもったいない。
知紀くんはピアノのレッスンをサボりすぎて、お母さんの逆鱗に触れてしまった。
いま頃はお母さんに扱かれているんじゃないかな?
ユウくんは、雅樹さんといっしょに魚釣りに行っている。
朝早くに出掛けて、船で沖のほうまで行くとか言っていた。
ボクも誘われたけど、船酔いするので断った。
だから、1人ぼっちの日曜日になってしまった。
朝ご飯を食べてから、部屋の掃除をすることにした。
日曜日は家政婦さんがお休みなので、自分の部屋を掃除するついでにリビングとトイレとお風呂もきれいにした。
すべての掃除が終わっても、お昼まではまだ1時間半もある。
お昼は冷蔵庫のタッパーに入っている、昨夜のカレーの残りだ。
ボクの好物なので、カレーの時だけはいつも大量に作りおきしてもらっている。
家政婦さんがお休みのときに食べられるように、保存容器に入れてストックしてある。
時間をつぶすのに、図書館か駅前の本屋に行こうと思った。
図書館に行って来る、と母さんに断ってから出掛けた。
家を出るときまでは図書館と決めていたけど、家から1歩出ると足は自然と駅前のほうに向かっていた。
駅前の本屋には、CDも置いてある。
奥のCDコーナーでクラシックのアルバムを見る。
知紀くんが好きなドビュッシーのCDがないか探す。
ボクの家にあるアップライト・ピアノで、知紀くんが1度弾いてくれたことがあった。
あのときの曲は、確か、……。
曲名を思い出していると、視線を感じた。
「あっ!」
振り返ると、楠見先生がいた。
先生もボクを見て、驚いた顔をしている。
ボクは引き寄せられるように、先生のところに行った。
「先生、こんにちは」
「おおっ」
休みの日の先生は、きちんとしている。
髪に寝ぐせはついていないし、シワシワの服も着ていない。
「いつもこうだといいのに」
「何がだ?」
「格好」
「ああ」
先生が苦笑している。
ボクは憎まれ口を叩いても、内心、うれしくて顔がほころんでしまう。
同時に、ちょっぴり淋しい。
楠見先生がちゃんとした大人だと分かっていたけど、先生の世話を焼くのがボクの楽しみになっていた。だから、ボクなんか必要ないと、余計に感じる。
先生はキョロキョロと辺りを見渡していた。
きっと、あの2人を探しているんだろう。
「あの2人は?」
「今日は予定が入ってて……」
「へえ。いつもいっしょなのに、めずらしいな」
「知紀くんはピアノの練習をサボりすぎて、お母さんにめちゃくちゃ怒られたそうです。いま頃は、ビシバシ扱かれているんじゃないですか?」
「そりゃ、村瀬が悪いな。……可哀そうだけど、自業自得だから仕方がないか」
気の毒そうな声とは裏腹に、楠見先生は妙に楽しそうだ。
「黒崎はどうした?」
「ユウくんは同じアパートのお兄さんと海釣りに行ってます。ボクも誘われたんですけど、……ボク船酔いしちゃうんで、残念だけど断りました。海とか大好きなんで、本当は行きたかったんですけどね」
でも、行かなかったおかげで、こうして先生と会うことが出来た。
「先生の家って、この近くですか?」
「いや。徒歩で20分ぐらいかな。学校の方が近いよ。……学校の近くにコンビニがあるだろ? あそこから10分くらい歩いたところだ」
「ボクの家からも近そうですね」
「ご近所さんだな」
先生の言葉に、ナイスアイデアが浮かんだ。
「あの、先生……お昼ご飯、食べましたか?」
「もうちょっとしたら、どこかで食べようかと思ってるんだけど……」
「カレーがたくさんあるんです。よかったら、いっしょに食べませんか?」
「いいのか?」
カレー好きなんだ、と先生はうれしそうにしている。
ボクも好物が同じでうれしい。
こんな些細なことにまで喜びを感じるのが恋なんだな、と実感する。
「……家に来るか? 親御さんのお許しをもらわないとな」
「親なら大丈夫です。……その前に、ボクの家に寄ってもらってもいいですか?」
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