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部屋中に温め直したカレーのいい匂いが漂い、食欲をそそる。
テーブル代わりのこたつにカレーライス、小皿に盛りつけたサラダ、ミネラル・ウォーターの入ったマグカップを並べると、2人で「いただきます」と手を合わせて食べ出す。
「うまっ! 何だ、このカレー。……沢田んちのカレー、最高だな!」
「お口に合ってよかったです」
先生が絶賛する澄代(すみよ)さんのカレーは、スパイシーで大人の味がする。
ボクも小学校に入った頃からこのカレーにハマっていて、いつでも食べられるようにストックしてもらっている。
「先生が褒めてたって澄代さんに伝えたら、きっと大喜びするよ。……それより、先生、サラダもちゃんと食べてね。オーロラドレッシングを掛けたら、美味しいよ」
またお母さんみたいに口うるさくなってしまう。
「は~い、お母さん!」
「もう、お母さんじゃないって!」
楠見先生に完全にお母さん扱いされている。
ボクはふくれながら、澄代さんのカレーを頬張った。
美味しい!
2日目のカレーは確かに美味しいけど、いつも以上に美味しく感じる。
理由は分かる。
好きな人と食べているからだ。
好きな人といっしょに食べるものなら、何だって美味しいと思うだろう。
先生はあっと言う間に、1杯目をたいらげた。
ボクがお代わりを食べ始めた頃には、先生はすでに食べ終わっていて、物足りなそうにしていた。
「半分食べる?」
見かねて聞いてあげると。
「いいのか?」
先生の表情が、一瞬で変わる。
子どもみたいに目を輝かせて、本当にうれしそうだ。
ボクは、先生のこの表情に弱い。
こんな顔を見せられたら、何でも許してあげたくなってしまう
でも、甘やかしてばかりはしていられない。
何てったって、ボクは先生のお母さんなんだから……。
「……その代わり、先生はサラダを残さず食べること!」
「了解!」
先生が野菜サラダをむしゃむしゃ食べ出すの見て、ボクは自分のカレーを先生のお皿に半分ほど分けてあげた。
「ありがとう。こんなにいいのか?」
先生も単純に出来ているらしい。
幸せそうな先生の笑顔を見ていると、こちらまで幸せな気分になる。
持ってきたカレーとサラダは2人で食べきった。
ご飯が少しだけあまったので、先生の家にあった佃煮の昆布を入れておにぎりにする。
「ご飯の残り、おにぎりにしておいたから食べてね」
台所の先生に声を掛ける。
「サンキュー!」
洗い物をしていた先生が、戻って来た。
手には、小鍋とタッパを持っていた。
洗ってくれたようだ。紙袋に入れて、返してくれた。
「沢田、ごちそうさま。美味しかったよ。お家の人によろしく伝えておいてくれ……」
「洗ってくれたんだ。ありがとう」
「アイスがあるんだ。デザートにどうだ?」
「いいね」
お腹いっぱい食べたけど、デザートは別腹みたいだ。
家にあるアイスを持ってくればよかったと思っていたので、うれしい。
「チョコミントとチョコバーどっちがいい?」
「チョコミント」
「だと思った。沢田は味覚が大人だな。……先生もチョコミント大好物なんだ」
「先生も好きなんだ?」
好きな人と食べ物の好みが合うのはすごくうれしいし、大切なことだと思う。
「チョコミント、1口ちょうだい。ボクのチョコバーを食べていいから……」
やっぱりそう来たか。
「駄目、あげない!」
「ええぇっ、何でだよ? 沢田のケチ! ケ~チ! ケ~チ!」
子どもみたいに駄々をこねる。
「もう、しょうがないな。1口だけだよ」
「やった!」
子どもみたいにはしゃいで、ボクの食べた跡にかぶりつく。
ボクはやっぱり先生には甘かった。
惚れた弱みってやつだ。
「はい!」
かじった跡のついたチョコバーを差し出されて、ドキッとする。
「1口くれたから、お返し」
「いただきます」
先生のかじった跡をボクも1口食べた。
あっ、これって間接キス?
そう思ったとたん、何だか急に恥ずかしくなってきた。
でも、ボクの顔が赤くなるようなことはない。
自分でもつくづく損な性分だと思う。
真っ赤になって恥ずかしがっていれば、先生に可愛いと思ってもらえるかもしれないのに……。
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