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ホームルームの間中、ボクはそわそわしていた。
これが終わったら、楠見先生のところに遊びに行く約束を取りつけるつもりだからだ。
厚かましいかな、と思わなくもないけど。無邪気になんでもできるのが、子どもの特権なんだと思うことにした。
帰り際、「また遊びに来てもいいですか?」と聞いたとき、先生は何も言わずただ笑っていた。
いいとも、悪いとも、言われなかった。だからボクは、それをオーケーのサインだと都合よく受け取ることにした。
「……これでホームルームを終わります。みんな、寄り道しないで帰るんだぞ!」
ようやくホームルームの時間が終わった。
先生が教室を出て行くのを見送ってから、後を追いかける。
「先生、話があります」
ボクがよび止めると、先生がぴたっ、と立ち止まった。ボクの声だと分かったのかもしれない。
なぜか、まっすぐ前を向いたままで、ボクのほうを見ようとしないのが気になった。
「……数学の質問か?」
感情のこもらない、はじめて聞くような先生の声。
浮かれていたボクを、一瞬で凍りつかせる。
違和感はなんとなく感じていたのに。いつもの楠見先生とは様子が違いすぎたのに。
ボクは浮かれすぎて、気づくことができなかった。
おじけづきそうになるけど、勇気を振り絞って言葉にする。
「いえ。あの、……また澄代さんのカレーを持って、先生のところに行ってもいいですか?」
しばらく間があってから。
「数学の質問じゃないなら、別の日にしてくれないか。……悪い。これから会議なんだ」
楠見先生は突き放すように言うと、足早に職員室へと向かった。
最後まで、こっちを向いてくれなかった……。
きっと、会議というのも嘘だ。
先生との距離が一気に縮まった、と思ったのはボクの勘違いだったんだろうか。
2人の距離は縮まるどころか、以前より遠くなってしまったように気がする。
ボクは、その場に1人とり残されて、呆然とするしかなかった。
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