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走れ
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9回裏1死満塁。
2対2。
バッターカウント3ボール2ストライク。
一本出ればサヨナラ。
ボールでもサヨナラ。
デッドボールでもサヨナラ。
ワイルドピッチでもサヨナラ。
ゴロはゴー。
フライは戻る。
三塁ランナーは、考えることがいっぱい。
自分があのホームベースを踏めば、チームの勝利が決まる。
俺は、あのテレビ中継が入り、暑い夏を彩る……熱い夏を彩る、甲子園にいきたい。
今、勝たなくちゃ。
今、俺がホームベースを踏まないと。
汗が顔を滴り落ちるのがわかった。
今日は、妙に暑い日だった。
そして、ピッチャーが振りかぶる______
「甲子園に行きたかったからさ」
「うん」
「あのホームベース本当は踏みたかったんだよ」
「知ってるよ」
「ごめん」
「なんで謝るの」
「俺のせいで……お前の高校最後の夏を終わらせちゃったから」
「あの時、誰もがマサが走ることを疑わなかったよ」
「でも、アウトだった」
「相手のセンターが上手かっただけ。それに、次の回、打たれたのは俺のピッチングのせいだし」
「お前のピッチングは完璧だったよ」
「でも、打たれた」
俺は、
「悔しくて」
いつまでも、あの踏めなかったホームベースを追っている。
「大学行って、野球続けなかったの、マサだけだよ」
「ダメなんだ。……走ろうとするとホームベースがみえるから」
「ねえ、マサ。もういいんだよ」
あの時の投手、ナカハラは、俺と未だに交流がある高校時代の友人であり、元チームメイトである。大学に行っても、野球サークルに入ったらしい。
「でも……」
「お前と過ごせた夏が、俺にとっては宝物だから」
悔しい
「じゃあ、俺、そろそろ……」
「デートか?」
「ばっ!!……マサは、そういう口だけは達者になったよな」
「はははっ。また会おうな」
「うん。じゃあな」
ナカハラは走る。
ナカハラが今、付き合ってる人がいることは知っている。
ナカハラは高校時代、俺とバッテリーを組んでいた。
ナカハラと俺は、親友だった。
ナカハラは今、大学でバッテリーを組んでる奴と付き合ってるらしい。情報は早い。
今もそいつの元へ向かったはず。
なんで、俺はそれを黙って見てるんだ。
なんで、俺はあいつを追いかけないんだ。
後悔は続く。
走れ。
走れ!
ホームベースはいつまでも、はるか前方に見える。
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