アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
届け
-
あの日。
俺たちの夏が終わったあの日。
俺は、あいつに伝えるはずだった言葉がある。
「カズ、」
「ん……」
甘い口づけをして、俺たちの行為は始まる。
大学に入って、サークルで一番初めに仲良くなって、気が付いたらこういう関係になっていた。
好きなのかどうかは、今でもわからない。
もしかしたら、俺はサイテーなのかもしれない。
「カズ……気持ちいい?」
「あっ……んぁ……う…きもち……あぁ!」
気持ちいい、とか、好き、とか、そういうのが入り込めない神聖なものが、約一年前には存在した。
呼吸をするのと同じくらい当たり前にそこにあった。
今じゃ全て終わった話だ。
「カズは、俺のこと本当に好きなの?」
行為が終わり、ベッドの上でする会話は、いつも疑うところから始まる。
俺は毎回、この質問が怖くて仕方ない。
「好きだよ」
そう言って、目を擦った。
見たくない現実を見ないために。
「ふーん。ねえ、こっち向いて」
向くと奪われる口。
サークルで、俺の投げる球を受けてくれる。
今の俺のバッテリー。
恋人なのか。
少なくとも、向こうはきっと思ってる。
俺は……?
あの日、あの時、思いを伝えられたら。
目を擦って「大学からは会えなくなるな」なんて言わないで、素直に「ずっと一緒にいたい」と伝えられたら。
目を擦るのは、俺が嘘を言う証。
きっと、ベッドの上のこいつは、まだ気付いていない。そして、いつか気付くだろう。
でも、その時には、もう俺はこいつを好きになっているはずだから。
届け。
届くな。
俺はいつになったら……
浮かぶ笑顔は、坊主に日焼けた肌と細い目。
俺のことを「ナカハラ」と呼ぶ、声。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
7 / 8