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だから、言ったのに。
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「うかうかしてると、手遅れになるよ」
誰の言葉だったかな。
もう、忘れちまった。
大学も、1年次の授業は終了して、今は2月も半ば。
あとは、4月に2年次になるだけとなる。
就職も関係ない。
ただ、単位を落とさないように授業を受けるだけ。
春休みなんて言って、夜更かし、遅起きを繰り返して堕落した生活。
バイト場と家とを行き来するだけ。
でも、そのサイクルの中に、もう一つ加えるとしたら、『あいつの家』。
あいつの家と、俺の家は、歩いて1分の超ご近所。
夜中だろうが、早朝だろうが、関係無く行けるのが、あいつの家。
バイト前の数時間を、あいつの家で過ごす。
ダラダラと、ダラダラと。
出会って、9年。
まだ鼻水垂らして遊んでた時からの、友人。親友。
それが、いつからこうなったろう。
「やっぱ、俺、お前が一番好きだわ。」
そう言うお前の中に、俺と同じような感情はない。
何かあるたびに渡してくる手紙。
あいつは、器用に長文の手紙やメールを俺にくれる。
その中にある、
「大好き」
の文字。
それらに深い意味ない。
あいつの好きは、あいつの愛犬に言う好きと一緒。
その度に俺は、一度大きく瞬きをしてから、
「俺も好きだよ」
と答える。
「も」を入れたのは、お前と気持ちは一緒だ、という弁解の意味。
それ以上の気持ちはない、と誰かに言い訳するための、逃げ。
そうだ。
あいつを初めて意識したのは、中学3年生の時だった。
些細なことで喧嘩をした。
確か、あいつが隠し持ってたエロ本を、俺が借りて、それをあいつに返す時に、手違いで母親に見つかる位置に置いて帰ってしまった時に、大喧嘩した。
今から思えば、そんなこと。
当時、俺はひたすら謝って、あいつは俺のことを絶対許さないと言った。
絶対許さない、その言葉が俺に問いを投げてきた。
“このまま、こいつと一生話せなくなったら?”
そんなの、死んでも嫌だ。
“それは、親友でいたいから?”
違う。
“じゃあ、何?”
俺は、あいつが……好きだ。
いっときの、気の迷いとさえ思った。
でも、その感情はいつまでも俺の中をぐるぐるとした。
親友と言わせるくらいだ。
お互いに友情の好きあいはあるはず。
じゃあ、それ以上の感情は?
仲直りした時のあいつの笑顔を見て、俺は自分の感情を理解してしまった。
もうダメだった。
自覚したら、そこまで。
あとは、苦しい日々が続くだけ。
同性だから。
男と男だから。
変だから。
あり得ないから。
引かれるから。
言い訳をして、逃げていく日々。
本当のことは言わないけど、言わなかったら、この仲のいい関係を続けられる。
でも、気持ちはどんどん募っていくだけ。
高2の夏前。
あいつに初めての彼女が出来た。
俺は死ぬほど絶望した。
でも、まだ俺には余裕があった。
俺は、あいつへの感情を抑えられるほど、気持ちの余裕があった。
俺にも追うようにして彼女が出来た。
ちなみに、あいつと俺は高校は一緒じゃない。
俺がわざと違うところに行った。
あいつは自転車で15分の地元の高校に、俺は自転車と電車を使って1時間半の高校に進学した。
多分、俺の余裕は、そこからだ。
離れて、話す機会が減って、お互いのことで忙しくて、勘違いが出来た。
『あいつは、ただの親友』と。
お互いに彼女が出来て、惚気話をして。
最初にダメになったのは、俺だった。
相手の女の子に何の不備もなかった。
よく出来た子だった。
でも、俺は彼女と別れた。
やっぱり、あいつのことを忘れられなかった。
あいつの惚気話を聞きながら、何もしなかった自分のせいだ、と天罰のように、その惚気話をひたすら笑顔で聞いていた。
あいつが彼女と別れたのは、それから2ヶ月後のことだった。
あいつは、彼女にフラれて泣いていた。
心の中の悪魔が、
「今だ。今がチャンスだ。甘い言葉で」
と、言ってきた。
それでも、俺から出た言葉は、
「しっかりしろよ。男だろ?彼女くらい。すぐ出来るよ」
だった。
俺は、またあいつへの気持ちを隠した。
そして、それから、俺もあいつも彼女どころか、好きな人も出来ていない。
俺は、あいつのことが好きだから、他の人を好きになろうとは思っていないだけ。
じゃあ、あいつは?
なんで?
ダメだ。
そんな推測は危険なだけ。
危ない、自惚れ。
俺は、臆病で怖がりで、卑怯な人間だった。
大学に入ると、お互いに話す機会が、中学生並みに増えた。
土日はどちらかの家に必ず行き、長期休みは毎日のように、どちらかの家でゴロゴロしていた。
連絡だって、毎日取り合った。
俺のあいつへの想いは、もうどうしようもならなかった。
もうダメだ。
でも、怖い。
そうやって、うかうかとしている間に、あいつから届く連絡。
『やべーよ、ようちゃん。俺、先輩のこと好きかもしれない!!!!』
俺のことを「ようちゃん」と呼び、前々からよく一緒にいるという3年次の女の先輩のことが好きだと言った。
俺の前に大きくて黒い壁が立ちはだかる。
そして、その壁の前にいた悪魔(俺)が、絶望的な表情をしている俺に、こう言うんだ。
「だから、言ったのに。」
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