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指輪の意味、かんけーねーな。
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どういう訳か、僕は好きな人とお揃いの指輪を左手の中指に付けている。
「自分、この指輪ずっと欲しかったんすよ」
「そうなの。良かったね。でも、なんで、僕と?」
「知らないんすか。これ、ちょー仲良しの印っすよ」
僕の好きな人は、頭のネジというか作りが少し甘い。
喋り方が正直馬鹿っぽい。
僕の友達からは、好きな人……アキラと仲良くしているのを、時々不思議がられるが、アキラはいい奴だ。
何より、可愛い。
「アカネさん!!!指輪!!!指輪作るっすよ!!!」
突然、そういって、巷で少し有名なオーダーメイドの指輪を仲良く中指にはめることになった。
あの時のアキラの行動力には感動した。
いつものちゃらんぽらんがどこへやら。
さっさと車のキーを掴んで、ついでに俺の腕も掴んで、さっさと助手席に座らせて、指輪を作ってくれるところへ車を走らせた。
その間、アキラは雑誌で見ただの、テレビで見ただの、楽しみだの、とりあえずよく喋った。
そして、2時間かかって辿り着き、2時間かかって指輪を作った。
「アキラ。もう4時間もお店開けちゃってるよ」
「大丈夫っす。アリモリさんが、きりもりしてくれてるっす。自分、アリモリさん信用してるっす」
僕のお店は町の小さなカフェ。
常連さんが多く、たまに口コミで聞いたといって、遠くからお客さんが来てくれるくらいには繁盛している。
アリモリくんは、副店長で、今日は少し開けるといって、店を任せてきた。
アキラは、うちの店で働く唯一のアルバイトだ。
どういう訳か、僕は、アキラのことが好きらしい。
でも、アキラは、きっと僕のこと、バイト先の店長としか思ってないだろう。
それでいいんだ。
帰りの車は、行きと違ってアキラは随分無口だった。
仲良しの印……ね。
アキラの仲良しは、バイトの給料を良くしてほしいとか、シフトを希望通りに通してほしいとか、そんなところに繋がるのだろうか。
それとも、単純に人間的に仲良くなりたいのだろうか。そういうごちゃごちゃした事情は置いといて。
「アカネさん。知ってました?左手の中指に指輪つける意味」
「知らないな。薬指なら何となくわかるけど」
アキラは、前を真っ直ぐ見つめたまま、少し慣れたようにハンドルを切った。
少し揺れて、身体が動く。
「左手の中指に指輪をするのは、良好な人間関係を結びたいからっす」
良好な人間関係。
それは、いわゆる、バイト場における上司と部下てきな話だろう。
「……でも、自分考えたんすけど、アカネさん……店長とは良い関係築けてる気がするんすよ」
僕のことを、アキラが「店長」と呼ぶ時は、アキラなりに無い頭を使って発言している時である。
「自分、夢は、左手の薬指に指輪をすることです。好きな人とお揃いのっす」
「……それは、良い夢、だね」
ダメージがでかい。
アキラくらいの男は、一度考える時期でもあるけど、それを僕に言うのは、かなりのダメージだ。ライフは50くらい減って、僕は瀕死の状態に陥る。
アキラと僕を乗せた車は、静かな僕たちを無事に店まで連れて行ってくれた。
そして、アリモリくんには、一時間以上の長い説教を二人で受けた。
……この時のアリモリくんの目は、人間のものとは思えないほど冷たかった。
僕は、アリモリくんの説教を聞いている間、ずっとアキラの婚約相手について考えていた。
なーんて、甘くて少しこっぱずかしいことを考えていた時期もある。
今は、この左手の薬指にきらめくものが、全ての答えだ。
「アカネさん」
そう呼ぶ声の主を見て、僕は幸せだなと思う。
「アカネさん」
この世で僕のことをそう呼ぶのはただ一人。
そして、これからもただ一人。
左手の薬指につける指輪を貰ったからとかではない。
アキラに貰ったことに意味がある。
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