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訪れ。 *光汰side*
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────シュートの瞬間。
ここにいるはずのない春ちゃんの姿が見えた気がした。
苦しそうに歪められた顔にはうっすら涙が浮かび、こちらに必死に何かを伝えようとしている。
春ちゃん……なんで…、!?
そう思ったのも束の間、俺の視界と聴覚は抱き着いてきた先輩と興奮したように立ち上がる観客たちの声で埋め尽くされた。
波の間からは、ブザービート…逆転……そんな言葉が聞き取れたが、今の俺の頭にはどうしての一言だけが浮かんでいた。
どうしてここに…、まさか幻覚…
いやいやいや、確かに最近全く寝れてなかったし、幻覚が見えてもおかしくないレベルには春ちゃん不足だったけれども!
次の団体が来ると役員に急かされ、やっと壁がなくなったことで急いで春ちゃんの姿を会場内に探すが見当たらない。
もしや本当に幻だったのかと焦るも、段々鋭くなる役員の目に追い立てられるように俺は皆より少し遅れて会場の廊下に出た。
「…全員いるな?…よし。えー、今日はお疲れ様。ここで現地解散になるが、明日の試合に響くことがないよう、しっかり体を休めること。明日は午後からの試合になるから今日よりも集合時間は遅くなるが、間違えないように。いいな。…それでは解散」
部長の言葉に威勢のいい返事が返る。
皆に去り際に労いの言葉をかけられるも、俺はなんとなく動く気になれなかった。
そのままぼーっと立ち尽くしていると気付いた時には全員いなくなっており、その場にはいつの間にか俺一人になっていた。
「…そろそろ帰るか。」
身体の疲労よりも勝る一種の倦怠感のようなものを感じながら荷物を持とうとした時だった。
「光汰っ、……!」
「え………は、る…ちゃん…?」
聞き間違えるはずのない少し高めの声に振り向くと、自分の足を庇うようにして必死にこちらに駆けてくる春ちゃんの姿が見えた。
これも幻覚…?いや、幻聴まで聞こえてきたのか。今まで半信半疑だったけどこんな精巧な幻ってあるんだな…あぁ、俺の脳内補完が逞しいだけか…?
呆然と様子を見守っていると春ちゃんは何かに途中で躓いたのか、突然俺の方へ倒れこんできた。
咄嗟に片手に持ったままだったエナメルバッグを放って受け止めようとするも、バランスを崩して二人とも後ろに倒れる。
幸運なことに誰も見る人はいなかったが、突然だっただけに尻餅をついた俺に春ちゃんが縋っているような体勢になってしまっていた。
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