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病院。
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「………………ん、…ぅ…?」
「…!春ちゃんっ…!大丈夫!?俺のこと分かる!?」
目を開けると見えた真っ白い天井とアルコールの匂いに、急激に意識が浮上する。
勢い良く上体を起こすと頭に鈍痛を感じて思わず小さく呻く。
その様子をあわあわと心配している光汰に少し安心するが、ここに来る前の出来事を思い出して目が泳ぎ出してしまう。
「…光、汰……えっと…」
「!……それはまた、後でね?…っあの、すみません!」
急にもじもじし始めた俺の考えていることを察したのか、光汰はナチュラルに人差し指を俺の唇に当てて黙らせると、病室から出て行ってしまった。
残された俺はといえばそのイケメンさにただただ慄いていた。
そうなのだ。しばらく離れていたせいですっかり忘れていたが、光汰はイケメンなのだ。
あれが自然にできるなんて、本当どんな高校生だよ!と心の中で抗議しつつ熱くなった自分の頬を冷ます。
あんなことされたら、勘違いしてしまうじゃないか。
やめて欲しい…と思いつつもどうしようもなく期待してしまう。
それに、一瞬だったが唇に触れた光汰の指はとても冷たかった。
病室の空調は完璧で、冷える要素はどこにもない。
もしかして、だけど。
心配…してくれたのだろうか。
少なくとも嫌われてはいなさそうなことに安堵のため息を吐いていると、光汰と連れ立って白衣を着た医者と思しき人が病室へ入ってきた。
いくつかの体調についての質問とありがたい注意の言葉を頂いた後、少し検査をしてからやっと帰宅の許可が下りた。もちろんこれきりではなく後日また検診に来ることが条件だったが…。
あまり病院に良い思い出がない俺としてはもう来たくなかったけど、こればかりは仕方がない。
医者に聞かされたところによると、最初に転んでひねった時点ではまだ大した怪我ではなかったものの、そこから無理に走り続けた結果、かなりひどいことになっていたという。
急に倒れたのは精神的に追い詰められた状態が続いたために脳がキャパオーバー…簡単に言えばシャットダウンした、らしい。
これについては身に覚えがありすぎて、俺は返す言葉もなかった。
ただそれはなんとなく、「あぁこれ、酷いことになってんだろうな」くらいには分かっていたから心積もりは出来ていたのだけど。
問題は久しぶりに大人に諭されてしょんぼりとうなだれて座る俺の後ろに立っていた光汰にも、厳しい目が向けられたことだ。
最初はどうして光汰が注意されているのだろうと思い振り返って見たその顔には、よく見ると寝不足なのかうっすらとクマができていた。
母が迎えに来るまでの代わりにと真面目に医者の話を聞いていた光汰だったが、今はきまり悪そうに頷いている。
……どうして俺は気が付かなかったのだろう。
今になってやっと分かった。なぜ光汰が朝一人で起きられていたのか。
____”寝ていなかった”のだ。
あまりにも安直すぎて呆然としてしまう。
起きられないのなら、寝なければいい。子供でも思いつくこと。
でもそれは、あまりにも現実離れしていて選択肢に入れるはずがなかった。
そこまでして俺を避けたかったのだろうか。俺と…会いたくなかったのだろうか。
さっきまで喜びに震えていた心が急激に冷めていくのを感じる。
俺のこの気持ちは、やはり光汰にとって迷惑なのだ。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめん……なさい……っ…。
俺は瞳に膜を張る液体が零れないよう、必死に奥歯を噛み締めた。
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