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話…これからの。
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光汰に抱きしめられながら聞いた話は、知っているものもあれば、全くの初耳のこともあった。
俺がいじめられた、本当の理由。
襲われた原因。
そして俺たちが距離を置く原因となった、”近付くな”という言葉の真意─────。
長い長い独白を終えると、光汰は自嘲するような笑いを発した。
「春ちゃん……俺はずっと、春ちゃんを騙してたんだよ。自分の身勝手な願望と、保身…ただそれだけのために。春ちゃんが好きだって言ってくれた俺は、本当の俺じゃない。好かれるために作った偽物の俺だ。…現に俺は今、そんな春ちゃんの思いに付け込んで、欲を満たしてる。………本物の俺といると、春ちゃんは不幸になる。
っだから、」
「離れろ………なんて、言わないよな?」
「、…」
図星だったのか、光汰はびくりと体を震わせてから押し黙る。
……あぁ。
さっきまでの俺は、何を心配していたのだろうか。
あまりにも馬鹿らしくなってしまい、抱きしめ返す余裕まで出てきてしまった。
坂口の電話での最後の言葉の意味が、ようやく分かった。
俺の許しがないとなにもできない忠犬……全くもってその通りだ。
「………光汰…好きだよ。」
額をくっつけて、まだ少し恥ずかしい二度目の言葉を囁く。
愛の言葉─────というよりも、今は。
この子犬を慰める言葉で、あって欲しい。
「…俺の幸せは、俺が決める。周囲から見て不幸だったら、俺は光汰のそばにいちゃいけない?……確かにさっきの話にはびっくりした。でもなんか…逆にふっきれたというか。お前は全部自分のせいみたいな言い方してたけど…そんなことない。本物とか偽物だとか…正直よく分かんないよ。でも俺が好きになったのは結局光汰だし……。
……なあ。光汰は俺のこと……やっぱり嫌いになった?」
分かっていながら聞く俺も、光汰のことを言えないくらいにはズルいんだろう。
目の前の男が小さい頃の光汰と重なり、自然とあやすような言い方になってしまう。
呆然としたままの光汰に、何か言ってくれないかなー、と少し離れて微笑むと、光汰が息をのむ音が聞こえた。
どうしたんだろう……困らせてしまっただろうか…?
そりゃ、今までつんけんしてた俺が急に素直になったんだから戸惑いもするだろうけど。
……ずっとこうしたかったのだ、本当は。光汰が慣れていなくても、俺の方は脳内シュミレーションばっちりである。
全ての誤解が解けて嫌われてないのが分かっても、不安なものは不安だ。
ひしひしと感じる視線に耐えながら次の言葉を待っていると、光汰は金縛りが解けたように、今度は強く抱き寄せた。
でもあの時…雨の中感じた痛みはなく、代わりに熱いくらいの体温が伝わってくる。
「ッ、守りたかった…!!!」
「……………うん……。………………、俺も。」
「っ昔から、春ちゃんは俺を助けてくれて、しっかり者で…でも少し危なっかしいところもあって。優しくて、暖かくて…。っそんな春ちゃんの支えに、少しでもなれたらって…ずっと、思ってたんだ…!…でも、いつからだろうな…もっとそばにいたくなった。春ちゃんの一番になりたいって。………いけないと思った。幼馴染みに、こんな感情を向けちゃダメだって、我慢して…抑え込もうとした。
っでも……、もう無理だよ…。ねぇ、春ちゃん……?」
「っうん……うん、うんっ…!俺も……同じこと、思ってたんだ…………ずっと…!」
光汰に耳元で甘く聞かれ、頭を撫でられた時にはもう、泣いていたと思う。
抱きしめていた腕が緩められ、再び額が近付く。
涙の滲む震える声で名前を呼ばれ、霞がかかった視界の先で泣き笑いの表情を浮かべた光汰は言った。
「春ちゃん…………愛してるよ。」
______俺は自分の名前が嫌いだ。
過去に囚われたまま、冷たく凍り付いた自分。
……でも本当は…そんな名前にそぐわない自分が、ずっと嫌いだった。
春、と光汰の顔が徐々に近付いてくる。
____あぁ、でも。
この愛しい、まるで太陽のように暖かで明るいお前が、たくさんの時間をかけて…沢山の回り道をして、俺の心を溶かしてくれたから。
俺は──────光汰が呼んでくれる、この名前なら、
─────好きになれる。
そう思って、涙に濡れる瞳をゆっくりと閉じた。
名前嫌いな俺と、ワンコな幼馴染。
【FIN】
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