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誤解。
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「春ちゃーん!部活終わったから帰ろー…って、………」
ハードな部活をこなした後でも元気に走ってきた光汰の顔が、俺の濡れた頬と赤くなった目、そこに伸ばされていた坂口の手を見た途端ぴしりと固まった。
光汰は肩に下げていたエナメルバックをこちらに早足で歩いてきながら近くの机に荒々しく、ほとんど投げるようにして置くと俺の腕を強い力で引っ張って自分の方に引き寄せた。
「…坂口。お前、春ちゃんに何をした」
「おいおい、そんな怖い顔で見んなって。俺は何もしてないよ、ほんとに」
ほぼ光汰に正面から抱きしめられるような形になっていた俺には光汰の顔は見えなかったが、発せられた声はいつもよりも数段低く、かなり怒っていることが伝わってくる。
光汰は俺が坂口に泣かされたと思っているらしく、坂口に対してただならぬ雰囲気を醸し出している。
「こ、たっ!ちがっ……」
一刻も早く誤解を解かなければと思い、なんとか頭を光汰の腕の中から出して、幼い頃よりずっと遠くなった顔を見上げた。
「さ、坂口は本当に何もしてないし、俺もされてないよ。泣いてるのはなんでかよく分からないけど……多分、何か怖い夢でも見たんだろ。だから、その…大丈夫、だから……」
「春ちゃん…」
そう言ってから、落ち着かせようと背伸びをして光汰の背中をぽんぽんとたたくと、強張っていた光汰の体から力が抜けていくのを感じた。
「…落ち着いたか?」
「うん……春ちゃん、ありがと…あと、ごめんね?俺ってば早とちりしちゃって…」
「ん………いいよ、別に。ていうか、謝るなら俺じゃなくて坂口だろ」
「俺っ?いやいや、俺なら謝る必要ないよ。いいものも見れたしさ」
「ふーん…?」
坂口の言う”いいもの”が何なのかはよく分からなかったが、本当に気にしてないらしく、顔にはいつものニヤニヤ笑いを浮かべていた。
俺はようやく光汰の腕の中から解放されると、一度大きく伸びをした。
「んー!っと、じゃあ帰るかぁ。坂口も一緒に帰るか?方向違うから校門までだけど」
「いや、俺は図書の日誌書いてからにするわ」
「そか。それじゃまた明日だな」
「ああ。気を付けて帰れよー」
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