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用を成した卓上に並べられた試験管の中身を開け、水道の水で簡単にすすぎ洗いをする。
窓を開けているにも関わらず実験後の理科室はじんわりと熱く、指先に触れる流水が冷たくて気持ちいい。
実験はほとんど同じ班のクラスメイトに一任した為、片付けだけでも率先してやっている。
「実験レポートは放課後に係の生徒が集めて、準備室まで持ってくること。期限は今日中まで。それ以降は受け取りません。」
理科担当である佐伯の一言に、はーいと何人かの生徒が返事をする。
係の生徒……つまり、陽汰が佐伯の元にレポートを届けなければならないようだ。
出席番号順で班分けされているため、番号が前後である陽汰とは同じ班だった。
よほど勘違いとは思えない程に、こちらの班ばかり構うのははやり陽汰がいるからなのだろう。
教師が一生徒に贔屓するのはいかがなものだろうか。
「安藤くん、放課後は準備室にいるから。今日中に頼んだよ。」
「はい、わかりました。」
準備室、即ち佐伯の根城。
……一人で行かせるのは危ないな。着いて行ったほうがいいか。
「あ、世留。そういえば放課後にコバセンが職員室来いって言ってたけど、お前なんかしたの。」
「何もしてねぇよ。てか、放課後?!……まじか。」
後ろから背中を叩かれたかと思えば、となりの班で実験をしていた真緒が笑い混じりにそう伝えてくる。
よりにもよって今日の放課後って……なんていうタイミングだよ、コバセン。
隣に座る陽汰を横目で見ると、その視線に気づき、大丈夫と小さく言った。
そうは言うが、あまりにも頼りない。
*
「なんで、安藤なんですか。」
皆が教室に戻る中、やることがあるからと理科室に残った。
いま、この教室には俺と佐伯だけ。
俺の質問に、佐伯はわざとらしく首を傾げて笑った。
「なんで、って?彼には係の仕事をお願いしただけだよ。」
「違うだろ。それだけじゃない。最近、なんで安藤に固執してる?はたから見れば怪しすぎるんだよ、あんた。」
佐伯は困ったように肩をすくませ、言っている意味がよく分からないよ、と一言。
「僕が安藤くんを贔屓していると言いたいのかな。そりゃあ教師だって人間だからね。お気に入りの生徒がいたっておかしくないだろう?」
「まぁ、そうかもな。ただ、それが教師としての振る舞いを逸脱していれば話は別だ。」
俺の言葉に、佐伯は口をつぐみ何かを考え込むような仕草をした。
しばらく沈黙が流れ、真剣な顔をした佐伯が、君は……と再び話し始めた。
「君は、安藤くんと仲が良いのかい。」
「俺は……良いと思ってるけど。」
「それは、果たして安藤くんもそう思っているの?」
……確かに、そうだ。陽汰とは知り合ってまだ日も浅い。
俺はあいつの住んでいる場所も家族構成も知らない。
「君たちが学校で会話をしているのを殆ど見たことがない。いや、君だけじゃないね。安藤くんは学校に友だちがいないだろう。」
「だから、なんだって言うんですか。」
「なんで何だろうね。……あんなに綺麗な子なのに。」
「……お前、」
ドン、と教壇が大きな音を立てて揺れる。
気付いたら、俺は佐伯に詰め寄り胸元に掴みかかっていた。
暴力は駄目だ。こちらが不利になる。
手を離し、佐伯に背を向ける。
佐伯が何を考えているのかわかった時点でもう十分だった。
やはり、佐伯は安藤の素顔を知っていた。
あの恍惚とした表情は普通じゃない。佐伯は異常だ。
「ねぇ、浅陸くん。君もなんだろう。彼に固執しているのは。」
「違う。お前と一緒にするな。」
「彼は、本当に綺麗な子だ。閉じ込めて飾っておきたいと、そう思ってしまう程にね……。」
なんで……こんな異常者が教師をやっているんだ。
振り返ることなく、無言で理科室から出た。
佐伯はいつ手を出してもおかしくないくらいには頭がいかれている。
陽汰には自衛をしてもらいたいが、本人は恐らく全くもってその自覚がない。
俺が後からでも様子を見に行ければいいが、鍵をかけられてしまえば外からの手出しは出来ないだろう。
苦し紛れでもいい。
奴が怯んだ一緒の隙に逃げ出せれば。
『放課後、万が一何かあったら俺の名前を大声で叫んで。そしたら、自分の教室まで全力で逃げろ。』
そう書いたメモを陽汰の机の中に入れた。
……今考えれば、俺のその選択は正しかったのだろう。
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