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玄関を開けた瞬間、鼻をくすぐる甘い香りが。
どうやらお菓子が完成したようで、それを喜ぶ声が廊下まで聞こえてきていた。
「ただいま。ごめんね、思いのほか遅くなっちゃって。」
「おかえり〜!むしろベストタイミング!見てみて、丁度ケーキ焼けたの!」
「ほとんど陽汰くんのお母様にやって頂いたのだけれど、ケーキってこんなすぐに作れるのね。」
甘い匂いの正体は、オーブンから取り出したばかりのチョコレートケーキだったようだ。
買ってきたジュースとスナック菓子を手渡し、陽汰の部屋にいるという残りの面々の元へ向かう。
妙に静かで、嫌な予感しかしない。
「遅れてごめ……あ、それ……!」
「おかえりぃー。ふふ、見つけちゃたぁー。ヒナちゃんの成長記録。」
「真緒……。お前、人の部屋を勝手に漁るなよ。」
エロ本探しのつもりが思わぬ物を発見しちゃった!と陽汰のものと思われるアルバムを楽しげに見る真緒。
健二も真緒と一緒になってアルバムを眺めており、洋祐だけがマイペースにも読書に耽っていた。
……どうやら、この三人に留守番を任せたのは失敗だったようだ。
「ヒナちゃんちっちゃくて可愛いねぇ。この2人がお母さんとお父さん?」
「あ、うん。まだ僕が幼稚園に通ってた頃の写真だと思う。」
頭に某ネズミのキャラクターの耳をつけた陽汰の手を繋ぐ2人の男女が若かりし頃のご両親だそうだ。
家族であの有名テーマパークに遊びに行ったのであろう写真に映る幼い陽汰は、何故か悲しげな表情をしているように見える。
「お前、なんでこんな不機嫌な顔してんの?」
「えっと、怖くて……。」
「あっ、ヒナちゃんって絶叫マシーン嫌い系の人?」
「そうじゃなくて……あの、着ぐるみが、」
どうやらアトラクションではなく、パーク内を闊歩するキャラクターの着ぐるみが怖かったらしい。
いまは怖くないからね、とあまりにも困ったような顔で言われ、つい嗜虐心が煽られる。
「じゃあ、行くか。ネズミーランド。」
「え……えっ?や、でも、ほんとにもう大丈夫で……」
「なになに?!世留とヒナちゃんがネズミーランドでデート?やだなにそれ激アツじゃん。」
で、デート?!と真緒の言葉を間に受けた陽汰が顔を赤らめて慌てだす。
真緒なら絶対に面白がってついてくると思っていたがどうやらそのつもりはないらしく、楽しんでおいでと陽汰の肩にぽんと手を置いた。
確かにネズミーランドといえばデートスポットだが、普通なら男二人で行く場所ではない。
連れていった時の反応を見たいというのはあるが、確実に周囲に誤解を招くだろう。
「冗談だよね……?世留くん、」
「ビビってんの。ダッセー。」
ボソッと言い放った健二の一言に、陽汰が僅かに眉を釣り上げた。
ビビってない、と眉間に皺を寄せたかと思えば、俺に向き合って言った。
「……行こ、世留くん。」
「え、マジで言ってる?それ、」
「だって……もう大丈夫って証明したい。こんなのまだ小さい時だし、今はもう怖くないと思うから……。」
なんで変なところで負けず嫌いなんだコイツは。
他の客にどう見られるか以上に、健二に馬鹿にされたことが陽汰のプライドに火を点けたらしい。
何だか少しずつ陽汰も変わりつつあるんだな、と改めて実感する。
言われっぱなしではなく、俺達に対しても少しずつ思っていることを吐き出せるようになっている。
以前よりは心を開いてくれつつあるのだと思えば……嫌だとは言えなくなるじゃないか。
「あー……じゃあ、行くか?」
「うん……。本当に怖くないから…ちゃんと見ててね?健二くんに謝ってもらう。」
「テメー、また謝らせる気かよ!くっそ……世留!しっかりコイツの泣きヅラ写メってこいよ!腹抱えて笑ってやるからな。」
それを見て爆笑する真緒に、何故か暖かい眼差しで見守る洋祐。
俺の意見はよそに話が進んでいることに、思わず頭を抱えたくなった。
そんな中、ちょうどよくケーキを持って灯と潮がやってきたことで、ひとまずこの話は中断された。
どうせこの場限りの話だろうと胸をなで下ろし、それからは話題に上がることもなく、ダラダラと雑談をして解散した。
まさかこの日の夜、陽汰の方から『ネズミーランド、いつ行きますか?』なんてメールが来るとは誰が予想していただろうか。
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