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18歳以上ですか?
富樫にしおりをはさみました!
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富樫
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——あれ?
「夜見…夜見?どこ行ったの?よーみー」
家の中、夕餉を済ませた後のいつもの時間。
あの後も散々焦らして、ほとんど吐きそうになっていた夜見の相手をしようと思い約束通りの着物を着て寝床に行くと、そこに夜見はいなかった。
代わりに有ったのは荒れた一組の布団と、一部が抉れた畳だけ。
「…伊集院」
周りを見渡しながら伊集院を呼ぶと、どこに居たのか数秒で姿を現した。
「お呼びですか?」
「夜見が居ない。多分連れてかれた」
「少々お待ちを」
端末を出してどこかへと連絡を取り出すのを一瞥し、再度視線を戻す。
畳を抉ったのは夜見だろう、という事は抵抗した。
荒れた布団は夜見が敷いたもの、という事は夜見が寝床に来て、僕が来るまでの間の話。
…大体、五分くらいか…下手な本職か、練習を重ねた素人。
あの状態の夜見を連れて行ったのだから、そこそこ腕は立つ。
でもそれだけ?…違う、やり直しだ。
畳を抉ったのは夜見、これは正解。間違いない、け、ど。
「…あぁ」
つんとした匂いが鼻を突いて即座に原因を悟り、思考を組み立て直した。
…薬を盛られたか。僕のは大丈夫だったから、夜見のだけ。
夜見の身体に効果が出るのを待って、行動に移した。
だから時間が掛かって、しかも予想外の力で抵抗を受け、畳が抉れ、自分の身体の異常に気付いた夜見がもどした。
「伊集院。調理師」
「承知しました」
端末を耳に当てたままこちらを向いていた伊集院が、それをそのまま話している相手に伝え、通話を終える。
「そう言えば今日の事について話を聞いて無かったね、訊かせて」
「凱史様と夜見様がお出になられた後、志田はビルの方へ向かいましたので指示通りそれを追いました。
最終的に辿り着いたのは代表室。恐らく、盗聴器でも仕掛けるつもりだっだのかと」
西園寺との会話を思い出す。愚図の考える事はいつも一辺倒だ。
「後はお察しの通りです。申し訳ありません、不注意でした」
成程、それもフェイクだったという事…夜見を狙う、ね…悪くないけど、死んで良い。
「お前の神経が寝る時も張り詰められているのは知ってるよ。謝罪は要らない」
「痛み入ります」
「ここ?」
「はい」
所々に錆が浮き出た扉を指さすと、伊集院が即座にそこを開いた。
「ぁ…」
中に居たのは顔も見た事が無い、中肉中背の男。
僕の知ってる給仕係とは似ても似つかない。
「お前?夜見の食べ物に薬盛ったの」
「ひっ」
近くの台に並べてあったフォークを目元にかざして問い詰めると、短い悲鳴を上げた切り黙り込んでしまう。
「…」
「ぃ、ゃだ、止め、て、ひ、ぁ」「あーい、ちょっと待った」
力を込めようとした時、その腕を掴まれる。
振り返らず、姿勢も変えないまま言葉を紡いだ。
「大体お前の不注意だろう、富樫—とがし—」
「いやー、それ言われちゃうと痛いんだけどね。
勘弁してよ、こいつ下水から入って来たんだからさ」
「…本物は?」
「場所入れ替わっておねんね中。もう起きないけどね」
固まっているも馬鹿馬鹿しいので、体勢を直してTシャツジーパンの富樫に向き直った。
「睡眠薬?」
「何が?…あ、夜見ちゃんが食べたの?お前なー、その述語をすっ飛ばす癖止めなよ。
伊集院君くらいだよ?お前のスピードで会話できんの」
「お前を刺そうか?」
「はーいはい、分かったよ。んで多分そう。痺れ薬だったら声出してるはず」
「詳しい事は?」
「わかりませーん」
これ以上富樫と話していても無駄だと判断して、再度男に向き直った。
「んじゃ俺もう帰るけどね、えーっと、偽物君、悪い事言わないから早めに喋りな。
…どの道、耐えきれないから。絶対」
背後でそんな声が聞こえ、余計な事をと思う間もなく扉が閉まる音がした。
目の前では、伊集院がコンクリの塊の上に男を寝かせ、両手足を縛りつける。
作業が終わったのを見計らって、真横に立ち、声を掛けた。
「…僕が聞きたいのは二つ。良いね、二つだよ。たった二つ。
まずお前が夜見に薬を持ったのか。それから夜見が今どこに居るのか。
どっちからでも良い。答えろ」
…ほら見ろ、あいつが余計な事を言ったせいで顔つきが変わってるじゃないか。
粘れば粘る程、酷い事をされるというのに、あいつには、それが分かっていたのに。
…趣味悪いな。相変わらず。
「尋問班呼びま」「時間の無駄」
伊集院の言葉を断ち切って、フォークを握り直す。
「…ぇ、ぁ、く…ふ…は、は、は、は…あ、あぁぁ˝あ˝あ―――――」
声にならない声が鼓膜を揺らす、いつもなら覆ってくれるはずの少し小さい夜見の手も、今は無くて、苛つくままにぐりぐりとフォークを回して、引き抜いた。
「もう、一度聞いたから、答えたくなったら答えろ。答えるまで止めない」
残った眼球は突き刺すようにこちらを見て、瞼が限界まで開かれている。
夜見以外の人間と視線が交わるのを不快に思いながら、その目に赤くなった切っ先をもう一度めり込ませた。
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