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風呂上りにしおりをはさみました!
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風呂上り
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<51、風呂上り>
濡れた髪をバスタオルで乾かしながらドアを開ける。
「お風呂出たぞー」
「んー? うん」
こっちおいで、と優しい顔で微笑む相手に少しどぎまぎしながら部屋に入り、ベッドを背にしながら床に座る。何度も入ったことがあるはずなのに、部屋中孝太郎の匂いに満ちていることに今更意識してしまう。隣には本人が風呂上りで爽やかな匂いを発しているし。くそう、同じシャンプーだぞ。
ちらりと視線を送ると、穏やかな瞳がこちらを見ていた。
「……何ニヤニヤしてんの」
「別に?」
しまりのない顔でクールに返されても説得力が全くない。いつものきりっとした雰囲気も崩れ、なんだか甘やかな空気に照れ臭さが募る。
ぷいっと視線を外しながら、タオルでわしわしと髪を乾かす。
「聞きたい事があるんだけど」
「なに?」
「お前、親戚の家に何しに行ったの?」
「ああー……」
「なんだよその返事」
俺に何も言わなかったし! と強調すると気まずそうに孝太郎は頭をかき、実は親戚の家に行ってたわけじゃないんだ、と話しだした。
「じゃあお前どこ行ってたんだよ?」
「ちょっと……あの花束を買いに」
「はぁあ?」
「樹に嫌いって言われた事が結構……ショックで。あとちょっとだけむかっときて俺の本気をみせてやる! と、思った、ん、だけど……」
ごにょごにょと言葉を濁していく孝太郎にイライラして、足を軽く蹴る。
「おいこら! そこまでするってことは、あの花束ってなんの意味があんの? その、好きだからとかなんとか……言ってたけど」
あの花束はとりあえず花瓶に生けてあるが、なぜ孝太郎が俺に対して花束を送るのか理解できなかった。
もちろん、本気をみせてやるとか言ってたから何かしらの好意の表れだとは思うけど、薔薇とかならともかく、名も知らないような花だ。ふわふわしてて可愛いと思うが、どんな意味があるんだろう。貴重な花なんだろうか。
相当恥ずかしいのか、いつものすましたような男前の顔が真っ赤になっている。
「樹、花言葉って知ってる?」
「あ、あー…。まあ、存在だけ。詳しくはないよ」
「ほらやっぱり。忘れてる」
「忘れてる? なにが」
「一緒に教えてもらったのに……」
どうやらあの花束の意味は父さんから教えられたものらしい。キザったらしい父さんが幼い俺たちに教えたらしいが全く覚えがない。
「名前だけでも教えて」
「だめ。お前すぐ調べるだろ」
「けち!」
「なんとでも言え」
はははと笑う相手がちょっと憎らしい反面、愛しい気持ちでいっぱいいっぱいになる。
こんなに好きになってどうしよう。もうこいつから、離れられない気がする。
最後に小さく、一番聞きたかったことを質問する。
「なあ。その、最後にさ」
「うん?」
「なんでーー俺の事、好きなの?」
さっきから好きだ好きだとは言われているけれど、俺のどこが好きだとは言われた事がない。
俺は平凡すぎるくらいの人間で、顔だって特別いいわけじゃない。特技なんてものもなく、孝太郎が俺を好きなのがまだちょっと夢じゃないかと思ってしまう。
「……まだそんなこと言ってるのか」
「しっ仕方ないだろ? だってお前かっこいいし、なんでも出来るしで、俺なんかと、釣り合わないくらいなのに」
「それは違う」
両頬を挟むように顔を固定され、孝太郎の視線をじっと送られる。
「お前は過小評価すぎるぞ。むしろ釣り合わないのは俺の方なのに」
「そんなことないっ」
「ある。……好きなとこ言えばいいんだな?」
覚悟しろよと囁いたあと、ぐっと顔を近づけてコツンと額を合わせた。そして低い静かな声で話し出す。
「困ってる人をほっとけないとこ。誰にでも優しいとこ。家族想いのとこ。一人で抱え込むとこ。真面目なとこ。俺の料理をおいしそうに食べてくれるとこ。すぐ赤くなるとこ。からかったときの拗ねた顔。笑った顔、怒った顔、泣いた顔ーー」
「……もっもういい! もういいから!」
容赦のない言葉に死ぬほど照れながら、必死になって止めようとする。
けれどあっさり両手を掴まれてしまって、観念するしかない。
「だめ。思い知ってもらう」
「もう十分わかったよバカ!」
「眠そうな顔とか、朝のぼーっとしたとことか。まだまだあるけどーーーー最後に一つ。俺を好きでいてくれるとこ」
目の前がチカチカするみたいな錯覚と、全身が燃え上がるような感覚に身を委ねる。
目の前の二つの瞳が、ゆらゆらと揺れて俺を捉える。昔にはなかったはずの熱が孝太郎の瞳の奥に灯っていた。
それに気がついてしまえば、否が応でも気づかされる。いや、むしろなんで気づかなかったのか。
「……お前本当に俺の事好きだったんだな」
「さっきからずっと言いまくってんだけど。まだ言って欲しい?」
「もういい!」
えーとかなんとか、ころころと笑いながら孝太郎は俺を抱きしめる。
同じシャンプーの匂いが違うものに感じて胸がドキドキする。
「好きだよ」
「もうわかったって……」
「樹は言ってくれないの?」
そんな事、そうぽんぽん言えると思うなよ。俺はお前とは違う。こうやって人と抱き合うのも、初めてなんだ。勝手なんかわからない。
とびきりの甘い声で耳に囁かれる。きゅっと背中に腕を回しながら、唇を尖らせる。
「言わない」
「なんで」
「恥ずかしいから!」
「さっきの俺の方が、よっぽど恥ずかしかったんだけど?」
悪戯っぽい表情を浮かべて、孝太郎が俺を覗き込む。間近に迫ったその顔を見つめながら、ちょっと俯く。
「……好き好き言ったら、お前どっか行きそうなんだもん。それは困る」
「……困るのは、こっちなんだけど」
また額をあわせて、そっと吐息が混ざる。
キスをされる。
反射的に目をぎゅっとつむった。
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