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戻る日常と戻れない気持ち
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18時15分
「帰り際にごめんね?雄大君、来週からまた遅番できそう?」
雄大はどきりとした。
「お、遅番…ですか?」
「うん、なんか野上君が限界みたいで…上村君がいる日は遅番OKみたいなんだけど、西川ちゃんとか牟田さんだけの時はしたくないってうるさくて…来週から、上村君がテストであまり入れないみたいなんだ。まだ、雄大君の怪我が治ってなくて申し訳ないんだけど。」
雄大は意を決して、顔を上げた。
「いえ…来週からですね。こちらこそすみません。ずっと早番させてもらってて。」
「いやー、夜遅くなるから、まだ遅番はさせたくなかったんだけどね。出来るだけ、西川ちゃんには動いてもらって、雄大君はレジに入るように言っとくから。」
「大丈夫です。もう殆ど治ってますから。」
「でも無理しないで。きつい時はいつでも言ってね。」
「はい。」
雄大は返事をそこそこにすぐに帰ろとした。
「よかったー。あのお客様も心配してたから。」
その言葉は雄大を締め付けるのに十分だった。
「あのほら加藤さんだっけ?昨日、来てたんだよ。すごく心配してたよ。来週また来るって言ってたから、会えるといいね。」
「そ、そうですか…」
雄大はギュッと唇をかんだ。
目の端に梯子に登る上村の姿を捉えた。
「お疲れ様でした。」
雄大は話を遮るように頭を下げ、いち早くその場を去りたかった。
「お疲れーーー」
(店長は悪くないのにこのどす黒いような気持ち…それに今日はそんな話、聞きたくなかった。。)
ちらりと梯子から見ていた上村と目が合い、ドキリとした。
その強い目に雄大は応えられず、つい目をそらせた。
(今は上村君の気持ちを汲むことも出来ないよ…)
パニックになりそうな頭をフルフルと振って、お店に背を向けた。
雄大は店を出て、なるべく顔を上げないようにして、サクサクと人の間を縫って歩いた。
一日中使った左足は重みを感じて、速くは歩けない。そんな苛立ちが涙で上がってきそうになる。
(こんな所で涙なんて恥ずかしいよ。。)
グスリと鼻をすすって、肩を落とした。
まるで周りは人がザワザワしてるはずなのにポツンと1人になっていた。
「おっ!」
騒つくモール内でその声は雄大の顔を上げるのに充分な明朗な声だった。
「あっ……」
(一番、会いたくなかった…)
声を出した後悔に口元を抑えた。
「雄大君!」
その声に雄大は諦めるように目を閉じた。
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