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18歳以上ですか?
カウンターの下にしおりをはさみました!
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カウンターの下
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(キツイ……)
「悪いね、ママ。」
「まぁ、いいわよ。今日は平日だから客もいないし。でも大丈夫?この子、この体制で。」
雄大の目にはストッキングで覆われた、すらりとした足が行ったり来たりしていた。
(痛い…)
モールからタクシーに乗せられ、繁華街のこの小さなスナックに連れてこられ、押し込まれたのはこのカウンターの下だった。
ビールケースと段ボールの間で体育座りをして、雄大は首を動かした。
「大丈夫だよ。そいつ小さいし。」
黒田の声が遠くに聞こえた。
「この子、未成年なんじゃないの?こんなとこ連れてきて大丈夫なの?」
「いやいや、小学生みたいな顔してるけど22だから。ママ、景気付けにビールでもあげてよ。」
コツコツとテーブルを叩かれると頭に音が響いてくる。
「いらないですよ!」
大声で答えると再び、コツコツと音がした。
「あんまりキンキン声出すなよ。すぐバレるぞ。」
ブスッとする雄大に50代くらいの綺麗に化粧したママが、瓶に入ったコーラをくれた。
「わっ☆ありがとうございます。喉乾いてて…」
「ゲップすんなよ。」
「し、しませんよ!」
ウッとなった雄大は3分の1くらい飲んでいた瓶をソロソロとママに返した。
ガランガランガラン
入ってきた時に聞いた、古めかしい鈴の音がした。
雄大はビクッとした。
(まだ心の準備が…違う人でありますように…)
「よう、加藤。」
その思いはすぐに打ち砕かれ、雄大は身体を縮めた。
「黒田さん。」
久々に聞いた低くてよく通る声。
カウンターの下でもその声はまっすぐに聞こえた。
「黒田さん、直帰するならば直帰って書かないと。部長が夕方からずっと探してましたよ。あぁ、バーボン下さい。」
「あぁ。書こうと思ったら、ボードの前に部長がいたから。」
「黒田さんって、昇進する気はあるって言ってましたよね?」
「うん。手っ取り早く社長の娘と結婚したいんだが、残念ながら、社長んとこは息子しかいないんだよねー。」
「息子と結婚すればいいでしょう?」
ゴトリとグラスの置かれる音がした。
成康の丁寧なのに、砕けたような喋り方。
(板一枚隔ててるだけの距離だもんな…)
雄大は泣きそうなのをグッと堪えた。
(多分30分は経ったよな…)
「でもさー俺って顔がいいじゃん?だからさー会社の広告塔にでもして、ポスターとか街中に貼っちゃえばもう俺、社長じゃねぇ!?」
バンバンと頭の上の板が叩かれ、頭に響く。
(あのおっさん、僕のこと忘れてないよね?)
痺れてきた手足を震わせる雄大からは怒りしか出てこなかった。
ハッとすると同情するような顔のママと目が合う。
「でさぁさぁーー」
酔っ払いが呂律の回らない口調で話し続くていた。
「黒田さん、明日も会社ですし、もう帰りましょう。」
(おぉ!ええっーーー!?)
成康の言葉に雄大は目が飛び出るかと思った。
(こんなに我慢したのに?)
しかし、ちょっとホッとした気持ちもあり、雄大は肩の力を抜いた。
「駄目だ!!」
ガツン
カウンターを蹴られ、雄大はビクッとした。
「…何の話で俺を呼び出したんですか?黒田さん。」
緊張した成康の声がした。
「本題だな。」
ガタリと椅子が動く音がした。
「お前の元カノの話だ。」
さっきまで明るかった店内がグッと暗くなった。
雄大は小さな音楽が流れる店内で唾を飲むのもためらった。
「聞いたんだよ。お前が元カノと仲良く歩いてたって。…まぁ、元カノかも分かんないけど。」
「元カノ…」
「”ミサ”ちゃんだっけ?」
心臓の音が溢れ出しそうで、ギュッと身体を小さくした。
「ミサ….のことですか。」
雄大には愛おしく発音しているかのように聞こえた。
「加藤はさーあの小さくて可愛い”雄大君”がいるのになんで元カノと仲良く休日に遊んでるの?それとも元カノではなく、現カノかな?んでもって雄大君は現カレ?両刀だけに、交際も二股かな?」
ガタン
大きな音がした。
「……俺に掴みかかるってどういう事かな?」
「二股なんてかけてません。」
「じゃあ、どっちが元なんだ?」
「……ミサとはもう別れてます。」
「じゃあなんで2人で歩いていたんだ?」
「ミサが俺に連絡してきたんです。」
「答えになってないぜ。2人はよりが戻ったのか?もし、戻ったなら雄大君とは手を切るべきだろう?」
(そ、そんな……)
身体の力が抜ける。足の感覚がなくなってきた。
「よりは戻ってません。ただ、一緒にいた理由は…言えません。」
「雄大君には理由を言うつもりか?」
雄大は手を強く握った。
「言う…つもりは今のところないです。」
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