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めぐる道にしおりをはさみました!
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めぐる道
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黄色のパーカーは夏のバーゲンで買ったお気に入りの1つ。
薄い素材だし、黄色も卵色みたいだから、少しは落ち着いて見える。
雄大はパーカーをはためかせ、坂道を自転車で降りた。
まだ残暑が厳しいので、風が気持ちいい。
坂を下りると小学校が見えた。
(懐かしい…)
ついゆっくりと前を通ると運動会をやっているのか、楽しそうな声と騒がしい放送が入り混じっていた。
パーーン
とピストルの音が空を切り裂き、どこまでも広がっていった。
(さて、どうしよう?)
雄大は当てもなくぶらぶらと自転車を漕いだ。
ブー
「!?」
ボディバッグが揺れた。雄大は急いで止まってはバッグを開いた。
携帯が点滅してる。
雄大は息を飲んで、携帯を手にした。
”店長と仲間たち”から
上村: 椿さん、お誕生日おめでとうございますψ(`∇´)ψ
ブー
牟田: 今日ですか?おめでとうございます!
ブー
西川: ゆーちゃん、おめでとうー☆
「……」
雄大は携帯の画面で交わされる会話を見ながら、悲しくなった。
おめでとうが増えるほど、悲しくなった。
「ありがとう…」
ぽちぽちとメッセージを打ち、またすぐにバッグに携帯を戻した。
しばらく何も考えずに走っているとふと見覚えのあるイタリアンレストランが目に入った。
「……」
雄大は思いついたように自転車をそのお店に止め、中へと入った。
「いらっしゃいませ。」
昼前のお店はまだそこまで混んでなかった。
「このクリームパスタを。」
「かしこまりました。」
壁際の真ん中の席を通された雄大の場所からは、前回自分が尾行して座っていた席と成康が女性と座っていた席が両方見えた。
あの日の夜はハラハラして、苦しくて、高いイタリアンも味がしなかった。
「お待たせしました。」
運ばれてきたクリームパスタは、少し塩辛い味だった。
自転車はそのまま街の方へと走って行った。
昼間のカラオケ店はあの時のように知らない世界のような建物じゃなかった。
部屋も狭くなく、ソファーは使い放題で、あの時のような冷や冷やした汗もかかなかった。
雄大は1時間ほど歌って、再び自転車にまたがった。
車も人も多くて、自転車で走るには苦労をする日曜日。
雄大は諦めて自転車を押すことにした。
カラカラカラカラ カラカラカラカラ
タイヤの回る音がする。
雄大はピタリと足を止め、近くの柱に自転車と鍵を繋げてかけた。
「いらっしゃいませ。あれ?」
「あっ……」
マスターらしき男性は雄大の顔を見て、柔和な笑顔を作った。
「こんにちは。」
雄大は迷ったような笑顔を作り、カウンターに腰をかけた。
「あの時の傷、大丈夫だったかい?」
渡されたおしぼりは温かかった。
「はい。おかげさまで、傷跡も残りませんでした。」
「あの後、あの2人は結婚したみたいだよ。全く、人騒がせな2人だったよ。君もひどいとばっちりだったね。で、何にする?」
「あっ、コーヒーを。」
「マスターのオススメでいい?」
「お願いします。」
マスターはそそくさと準備を始めた。
「ところで、加藤さんは元気?」
雄大はどきりとした。
「えっ?」
マスターは振り向いて、雄大の目の前に置かれたコーヒーからは、いい香りがしていた。
「あの後から来てないんですか?」
「いや、あの後は1回来たんだけどね。最近は来てなくてねー。あっ、来た時はえらく君の事を話してたよ。とても可愛くて、大事な子だって。随分と嬉しそうに話してたよ。」
雄大はマスターから目を背け、コーヒーに目を落とした。
「マスター!」
他のテーブルから声がかかり、マスターは「あいよ。」と言って雄大から離れた。
「…….今はどうだか…」
携帯はまだ何も鳴らない。
雄大は唇を噛んで、電源をオフにした。
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