アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
確保したものにしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
確保したもの
-
見つけた時はハッとした。
背が高いその人はどんなに背を曲げたって、見つかるのは当たり前だった。
「成康さん!!?」
エスカレーターから身を乗り出して、雄大はその名前を呼んだ。
呼ばれた相手は急いで雄大からうつむき、背を向けて、歩き出した。
「ちょっ…成康さん!!」
何事かと下から人々が見上げてきたが、雄大はそんなの気にせず、エスカレーターを駆け下りた。
降りた時には成康の背中はすでに小さくなっていた。
「ちっ!」
雄大は舌打ちをして、腕を振って走り出した。
「成康さん!待ってください!!」
雄大は大きな声で名前を呼んだ。
人の間を縫って走り、成康の背中だけを見つめた。
成康はハッと一瞬後ろを向いて、その距離に驚いたのか、走り出してしまった。
「待って下さい!!」
成康との距離がまたも広がる。
何日間かの消化器症状で体力が失われたせいか、足に力が入らなかった。
(ちくしょう……息が続かない…目の前の背中は遠ざかっていく…ちくしょう…)
雄大は走るのをやめて、その場にうずくまった。
周りがザワザワとしてきた。
顔を膝に埋めていた雄大には周囲のザワザワしか聞こえてこなかった。
”どうしたの?”
”大丈夫?”
”怪我したのか?”
雄大は「お腹が痛い…」といってあとは何も言わずにうずくまっていた。
”救急車?”
”誰か店員さん呼んでこい”
人々の心配の声が聞こえてきた時、ようやくその声が聞こえてきた。
「だ、大丈夫?」
目を開けるとしゃがんだ人の足と黒い靴が目に入った。
「お腹痛いの!?」
雄大はにやりとほくそ笑んで、バッと顔を上げ、その人の服の端をつかんだ。
「お腹、痛いんです。」
雄大はじっと驚いた目の成康を見つめた。
「あっ…えっと……」
言っていた通り、成康の頬には殴られた跡があり、頬は赤く腫れていた。
綺麗に整っていた成康の顔が非対称になっていて、雄大は何故かカチンとした。
「何ですか!?その顔!!」
「な、何ですかって…」
「かなり腫れてるんじゃないですか!?唇も切ってるじゃないですか!」
「ゆ、雄大君、とりあえず離して。ここは道の真ん中だし、みんなが見てるし…」
「嫌!離しませんよ!」
あせあせと周囲を見渡す成康に対して、雄大は成康だけを見て、成康のカーディガンを強く握った。
「わかった!言うこと聞くから、逃げないから、あっちの端に行こう。」
雄大さその言葉を聞かず、成康のカーディガンを引っ張った。
「何で喧嘩したんですか!?」
問い詰めると成康は一瞬痛そうな顔をした。
「何で…って…」
雄大は成康の胸倉を掴んだ。
「僕のために…喧嘩したんですか?」
「……」
目を見開く成康の顔がすぐそこだった。
ここ最近、出会う成康の顔は余裕が無くて、雄大はその顔にホッとする。
自分の一方通行ではないと感じるから。
「どうなんですか?」
成康は眉を寄せたかと思ったら、はぁっと息を吐いた。
「俺のせいで仕事辞めるの?」
質問返しをされ、雄大はどきりとした。
「…それは…」
「聞いたよ…今年中で辞めるって…」
雄大は成康を掴んでいた手を緩めた。
「…だって…」
成康は申し訳無さげに肩を落とす。
「雄大君はここで働くの好きなんだろう?」
「……」
雄大は成康の意図が読めずに眉をひそめた。
「俺は雄大君がここで働いている姿が好きだ。」
「!?」
じゃあもしかして…淡い期待が膨らみ、雄大は顔を赤らめた。
元通りになる?また仕事帰りに寄り道してくれる?新しいグラスを一緒に選んでくれる?
「だから……」
成康は意を決したように雄大の手を握った。
雄大は期待の目で成康を見上げた。
「俺はもうここには来ない。」
「えっ…?」
ハタッと雄大は身体から力が抜けた。
「じゃ、じゃあなんで上村君を…?」
「それは彼が君を傷つけたから….許せなかった。。。」
悔しそうに端整な顔を歪める成康に雄大はパニックになった。
「それって僕のこと想って…?」
成康はふっと目を緩めて、雄大の両手を自分の口元に持って行った。
「勿論だ。雄大君が愛しいと思う。」
成康の唇が雄大の手に触れた。
雄大の心は一気に踊った。
「僕も…!」
「だからこそ…」
雄大の言葉を遮り、成康は目を落としたまま唇を離した。
「もう君を傷つけない。」
「えっ?」
成康の目が真っ直ぐ雄大を捉える。
「俺の事は忘れて、幸せになってくれ。」
はぁっ!!?
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
132 / 147