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上村くんと牟田さんにしおりをはさみました!
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上村くんと牟田さん
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「上村さんありました?」
カチャンと音がして、辰成はハッと顔を上げた。
「あっ…」
(そうだった!)
辰成は慌てて段ボールを押しのけて、その奥へと腕を伸ばした。
「あっ…ありました。」
ガサガサいいながら辰成は段ボールの山の中から出て来て、ほいと牟田に渡した。
「……なんか随分と汚れたのぼり旗ですね。」
牟田は嫌々そうに旗をつまむと、そこには黄色地の布に赤文字で”新春”と書かれていた。
「…ですね。」
牟田も辰成もここでの正月は初めてのため、シミのついたのぼり旗に閉口してしまった。
「しかも早いですよね?商品はもう置いてますけど、まだクリスマスの飾りが残ってますし。」
牟田は立ってるのが辛いのか、旗を杖代わりにして、体重を支えていた。
「…そうですね。これって元旦に飾るんですよね。」
「うーん。。店長はなぜ故、これを探しといてっていったんだろう?」
辰成は考え込む牟田の横顔をちらりと見た。
パンパンの頬に丸いフォルム。肉が多いせいか、鼻が低く、寒くなった昨今に半袖を着ている。見える腕は辰成の鍛えた腕より太く、動くたびに柔らかそうにフルフルと揺れている。
(椿さんの10倍はありそうだ)
「椿さんに聞いてみましょう。」
想ってる人の名前が出て、辰成はドキッとした。
「えっ….店長は?」
「店長、さっき電話があって、奥さんが車の事故にっていっても、どっかのお店のポールにぶつけたみたいで、特に大きな怪我もないみたいだけど、なんか話し合いがこじれてるって。警察と保険屋さん呼んでるみたいです。」
「わぁ…」
「んで、椿さんが残ってくれる事になったんです。」
辰成の心が少し踊った。
牟田はよいしょとのぼり旗をぶつけながら歩き出した。
「あっ、じゃあ俺行きます。」
辰成は嬉々として、のぼり旗に手を伸ばした。
しかし、牟田はそのクリームパンのような手でガッチリとガードしてきた。
「??」
「私が行きます。」
牟田は怒ったような顔していた。
食べ物の事に以外で牟田が感情を表すのは初めてのだったので、辰成はつい手を引いた。
牟田はふんっと鼻を鳴らして、のぼり旗を手に仁王立ちした。
「なに?」
女性にあからさまに敵意をむきだされるのは初めてで、辰成もつい、不機嫌そうに牟田を見下ろした。
「貴方のせいで、椿さんは辞めるんじゃないってのはわかってます。」
「なに…?」
驚いた。本気で驚いた。
辰成はごくりと唾を飲んだ。
「でも貴方の一方的なアピールが、椿さんとあの彼氏を追い込んだ一端にあると思います。」
(なにを言い出すんだ…)
辰成は自分をぐっと支えながら、牟田のつぶらな目を見返した。
「何を言いだすんだ?」
「私、全部知ってるんです。だから貴方が椿さんを困らせてるのも知ってます。」
辰成はカッとした。
「…じゃあ俺は、2人が付き合ってる時点で、諦めるべきだったと?」
「違います。」
「えっ?」
上ずったような声の辰成とは違って、牟田は静かに言った。
「別に好きでも告白してもいいと思います。」
静かな牟田とは正反対に辰成は頭に血が上りそうだった。
「意味がわかんねぇよ!!」
バシンっと近くにあった段ボールを蹴り上げた。
牟田は少し目を落とし、口を開いた。
「想いの丈をぶつけることは、人間として、当たり前だと思います。しかし、上村さんの場合は、椿さんの気持ちも考えずにただ自分を押し付けただけじゃないですか?」
牟田の目は真っ直ぐで、怒っていた。
辰成は目をそらし、くっと唇を噛んだ。
「…そんな事…わかってるよ!」
「わかっててしたんですか?」
「ぐっ…」
辰成は牟田に掴み掛かりそうなり、手を引っ込めた。
「じゃあ…じゃあ俺はどうしたらいいんだ?振られても、振られても、諦めきれない時はどうしたらいいんだよ。」
辰成は力なく床に座り込んだ。
牟田はうーんと唸り、口を開いた。
「待ってみたらどうですか?」
「待つ?」
牟田は輝くようにうんと笑った。
「待ってみて、向こうから来てくれたら、迎えればいいし、待ってみて、他の誰かを好きになったら、次に進めばいい!」
辰成は口を開いた。
「……それって拷問だね。。」
「あはっ!ですよね!!」
辰成は力を抜いてクスッと笑った。
「でもなんであんた、そんなに椿さんの事を?」
牟田は急に目をウロウロさせたかと思うと言いにくそうに口を開いた。
「私も椿さんのこと好きだったんです。」
「えっ!?」
辰成は身体を起こした。
「私ってこんなに太ってて、男なんて家畜見るみたいな目でしか見られなかったんです。でもここに来て、椿さんは私をちゃんと女として扱ってくれました。私より何倍も華奢なのに、荷物持ってくれたり、ゴミ捨てに行ってくれたり。元々、椿さんは優しいからなんでしょうね。でも私はここに来れてよかったと思いました。」
「好きって言わなかったの?」
牟田はちょっと遠慮したように口元を緩めたと思うと、ブッーと吹き出した。
「???」
「やだなぁー!私が椿さんを好きなのは、仕事ができるからですよ!だって、椿さんいなくなったら、仕事できる人いなくなって、困るじゃないですか!?」
「うぃっ…?」
辰成は目を丸くした。
「恋愛感情なんて皆無にないですよ!あんな華奢で可愛い男の子と一緒に歩きたくない!!こっちが嫉妬しますよ!」
「で、でも、俺が椿さんに告白したり、椿さんの彼氏のこととか知ってるって事は…恋愛感情があったら、調べたんじゃあ…」
「そんなの見てればわかります。」
ばっさり切られて、辰成は瀕死しそうだった。
「そろそろ戻らないと西川さんに疑われそうですね。上村さんと2人っきりになっただけで、何を言われるやら。」
牟田は軽々とのぼり旗を肩に担いだ。
「あっ!」
「?」
牟田の大きな声に座り込んで腕を組む辰成は不愉快そうに顔を上げた。
「そういえば…」
牟田はくるりと辰成を見下ろした。
「なんだよ!」
「あの椿さんのイケメン彼、今度お見合いするらしいですよ。」
「えっ!?」
「待ってればいいことあるかもですね☆」
置いていかれた辰成はしばらく頭が回らなかった。
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