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7章-p3 やりたいことにしおりをはさみました!
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7章-p3 やりたいこと
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あの日からダードは外出することが増えた。
あの日というのは、あの疲弊しきったザムシルとすれ違った日からだ。
色々考えた末に、ダードは何か行動に移したいと思った。リラレルが言っていたように何か没頭できるものがあればいいのだが、物事にこだわりが少ないダードは何から手を付ければいいのかさっぱり思い浮かばなかった。
そして、なんとか絞り出して思いついたのがこの間の旅でもやった釣り。あの時は久しぶりだった割によく釣れたし、楽しく感じられた。以前に住んでいた家では、裏口を出るとすぐに池があって、池の周りの森にもいくつか魚がいる川があって釣りを楽しむには良い環境だった。
しかし、ダードは現在の家の近くで釣りができる場所を知らなかった。まずはそこからだと思って釣りができる場所を探しを始めた。
手始めにリラレルに話を聞いた。
「そうねぇ、私は釣りってしたことがないから分からないんだけど...この辺の周りの森にいくつか川はあるわよ、池みたいになってるところもね。詳しいことはちっちゃい子達に聞くのがいいと思うわ。」
リラレルの言うちっちゃい子達というのは、家の周辺ぐるっと囲むようにある森に住む小妖魔の事だ。
妖魔達に話を聞くというのもいいが、ダードは自分で探すのも楽しいかもしれないと思った。町へ出る時には毎度森を抜けているのだが、その時はいつも同じ場所しか通らない。だから、まだ踏み入った事の無い場所はたくさんあった。
そう決意した翌日からダードは森へと向かうことにした。
リラレルが作ってくれた朝食を平らげると、大した準備もなく森へふらりと向かう。森に入ろうとすると妖魔達が寄ってきて「どこにでかけるの?」「遊ぼうよ!」等と言い寄って来た。
「森の中を知りたくて、探検したいんだ。」
そう伝えると、小さな妖魔達は急に嬉しそうに弾み出した。
「絶好の遊び場があるよ!」
「今はあの実が沢山なってるよ!」
「西の方には木が倒れてて危ないから近づかないでね。」
なんて、聞き取れない程の情報が飛び交った。
自分でいろんな場所を探したいと伝えると、納得して消えていく妖魔もいたが、一緒に行こうと方に乗ってきたり付いてくるものもいた。
森の木々は陽を受けて光りながら揺れていた。
いつも歩く道は草が取り払われある程度道が踏み固められているが、考えもなしに森へ飛び込むと縦横無尽に作られた植物達の帝国が広がり人の道など一切無い。
みな様々に、縦に伸び、横に広がり、幹を伝い、地を這い、光を求める。随分昔に朽ちたであろう倒木には苔が我が物顔で広がり、圧倒的な緑を裂くように色の濃い花が時々顔を見せた。
小妖魔達の取り巻きも気にもとめず、ダードは森をスキップでもするように道無き道をかけて行った。進む度に柔らかい土を足底にに感じると、時より驚いたように森の住人達が顔を出す。
以前ザムシルに聞いた話だと、この森は悪意に充ちた妖魔に支配されたいそう恐ろしい森だったそうだが、今では見る影もない。きっと今の美しい森が本当の姿だったのだろう。
美しい風景に温められて自然とほころんだ顔で、「いい森だな。」と誰に言うでもなく呟くと、小妖魔達もつられたようにふんわりと笑った。
少し歩いて耳の端に捉えた水の音を辿ってみると、小さな川を見つけた。しかしそれは、細く浅い川と呼べるか難しいものだった。
もうしばらく探索を続けるも、なかなか川らしいものは見つからず。珍しい花を1輪貰うと、仕切り直すために1度家に帰る事にした。
「あら、おかえりなさい何か面白いものはあったのかしら?」
家に戻るとリラレルが昼食の用意をしていた。
「いや、この森は思ったより広そうだな。」
そう言うとダードは、リラレルに花を渡した。
「まあ綺麗な花ね!ありがとう!お花を探しに行ってたんだったかしら?」
「いいや、そうじゃないが…」
時よりリラレルはこういう所がある。人の話を聞いていないというか、興味が無いというか。ザムシルの言う所つまりどうでもいい話なのでいちいち覚えていないという事らしい。
昼食を取るとダードは再び森へ繰り出した。
先ほどとは違う方角を探索するのだ。
すると、ようやくあたりを引いたようで、すぐにまともな小川を見つけた。覗き込むと小さい魚が2匹ほど水と共に泳いでいた。ダードはでかしたと思い心の中でガッツポーズをしたいくらいだった。
とはいえ、少し勢いをつければ飛び越えられる程度の水量の小川だ、魚も小さすぎる。そこでダードは川を辿って上流を目指すことにした。
上流を目指し歩みを進めるうちに、緩やかではあるが傾斜がきつくなってきた。その上、湿った土の周りには苔が多く生え沈むように足を取られる。人の手が入っていない道は険しく、何度も滑りそうになった。
そんな道をしばらく歩くと大きめの岩や、石が多くなってきた。伝ってきた川を目で追うと、少し上から滝のように水が不規則に流れ出るところが見えた。きっとここがこの川の始点だ。
水のでる場所を直接登るのは難しそうだったので、少し横にあった大きな岩をよじ登ることにした。湿っていて、ぬるついていたが足をかけ右手を伸ばす。掴まるには役立たずの左手は支える程度に岩に当て、蹴りあげる勢いで飛ぶように上に乗った。
そこに見えたのは予想以上の光景だった。
それは水面が大きく広がった湖だった。登った振動で驚いた大きな魚がバシャンと盛大に水を蹴りあげる音が響いた。水面と共に揺れた水草には小さな花が笑っていた。
前に住んでいた家の近くにあったものとは比べ物にならないくらい大きく、透き通っていて美しい。魚も申し分ないくらい大きい。
ダードは湖の近くに座ると、しばらく眺めていた。ふと、家でもよく一人でそうしていたなと思った。
そして、何となくまたザムシルを恋しく思ってしまった。きっと、ザムシルともこんなふうに家の裏の池を眺めたことがあったな、と思い出したからだ。
あれはお互いを敵と見なさなくなってからだったか、他愛のない話をしていたような気がする。
もっと思い出すと、初めてあった時は酷いものだった。気配を感じた瞬間に、思い切り蹴飛ばされて倒れた上に馬乗りで動きを封じられ、酷く見下したような怒ったような顔で首を絞められた。蹴られた場所もすごく痛かったし、首だって本当に意識の飛ぶ寸前まで絞られた。
その頃はザムシルも子供の姿をしていたから、なんでこんな子供がこんなに強いのか疑問であり疎ましくも思った。その時はすぐにザムシルの肉体年齢が中身とそぐわない事を知って納得しのだが。
それから、リラレルの命令で敵視される事は無くなり、話をするようになった。そうしたら、なんだか話が合って、池の近くで語り合ったり、手合わせをしてくれたりした。精神的に塞ぎ込んでいたのに、あれだけ話が出来たのだ。今考えれば、あの頃からザムシルは優しかった。
ザムシルと出会って、こうやって関係性が徐々に変わって、今では恋人なんて肩書きをもらってしまったなんて不思議だな。
ダードはそんなふうに考えながら、ぼーっと揺れる水面を眺めていた。
そうやってしばらくザムシルに思いを馳せてから、ダードは家に戻ることにした。ここを釣り場にするのは悪くない。少し道のりは掛かるかもしれないが、誰にも知られなさそうだし、静かで穏やかだし、美しい湖だ。
次は早速釣り道具を揃えなくてはいけない。買うか、作るかを考えよう。
そんなふうに色々と思考を巡らせながら歩いていると、どうやら来た道とは違うところを進んでいたようだった。立ち止まって辺りを見回すと、見覚えのない風景ばかりだった。これでは家の方向も定かでは無くなる。失敗したなとダードは思った。
仕方ないのでいつの間に肩に乗っていた妖魔に家の方向を教えてもらい進むことにした。妖魔たちにとっては、この森の中はいくら広くたって庭みたいなものらしい。
帰り道でまた川を見つけた。先ほど見つけた小川と大差ない。もしかして、これもあの湖に繋がっているのかもしれないなんて思って、とりあえず近づいて川を覗いてみる。しかし、先ほどのものとは違い魚や生き物の姿が一切見当たらなかった。
こんな綺麗な川なのに何故魚がいないのか不審に思ったダードは、水に触れてみた。
「ん。」
その違和感におもわず声が出た。
水が、ぬるいのだ。先ほど見つけた川と比べても、気温との兼ね合いを考えてもおかしいくらい暖かい。
その謎を解こうと周りを見渡していると、川から少し離れたある一点に目がいった。周りにいた小妖魔達がそこを指をさしたり、その場所に集まり手招きをしていた。
立ち上がりその場所に近づく。
少し近寄ると何となく勘づいた。
そこの周りだけやたらと湿気が多く、何より空気が暖かい。皆が囲む場所を見るとこそからはボコボコと音を立て水が湧いている。いや、それは水なんかではなかった。
「…温泉、だ!」
ダードは珍しく目を大きく開くと、魅入られるようにその湧き出た温泉を見つめていた。
そして、何かを決心したようにうなづくと妖魔達を置いてきぼりに足早に家へと走り出した。
あの湖もすばらしかったが、もっと良いことが出来るかもしれない。ダードは久しぶりに心が跳ねるように興奮していた。
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