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今日は朝からみんな忙しそうだ
奏と楓は部屋から出て来ないし、凱もいない
もしかしてチャンスなのでは?
俺の世界の人達はみんな優しかった
だからこの世界の人間だって頑張れば仲良くなれるかも知れない
そっと城を抜け出し、はじめて外の景色を見た
そこにはいろいろな仕事をしている人達がいた
すごいな、魔法の仕事って本当にあるんだ
そのまま歩いて行くと、急に景色が一変した
「ここは雰囲気が違う」
灰色の世界
笑顔も無い
何だろうこの匂い、嫌な匂いが漂っていた
本能的に感じた
ここは危険な場所
「おいおい、ここには相応しくない奴がいるぞ」
「そのワンドは王族の・・・貴様王族の人間か?」
どうしよう
囲まれてるし逃げられそうにない
「俺達は食べ物にも困っているのに王族の人間は毎日ご馳走を食べているらしいな」
「お前達のような王族が俺達を苦しめているんだ!」
「見せつけにこいつを火あぶりにしようぜ、城の前で」
「そうだな、少しは俺達の苦しみもわかるだろう」
何?
火あぶりって・・・
でも冗談では無さそうだ
「離して!」
「黙れ!」
腕を縛られて小さなかごに入れられた
俺を見る目は憎しみしか無かった
「死んでしまえ!」
「いたっ!」
一人が石を投げつけると一斉に石を投げつけた
「おい、死なれたら困るからやめておけ」
「王族なんか滅びればいい!」
「苦しみながら死ねばいい!」
どうしてこんなに貧富の差が激しいんだろう
この世界の奏は今まで何をしていたんだろう
そして城の前まで連れて来られた
「よく聞け王族共!俺達の怒りはこいつで償ってもらう」
俺、今度こそ死ぬのかも
貼り付けにされて足元に藁が置かれた
騒ぎを聞きつけて奏達が来てくれた
「空!」
「楓、ごめんね・・・俺」
「空を開放しろ!」
「嫌だね!そこで苦しみながら死ぬのを見ているといい、動いたら首を切り落とすぞ」
「・・・っ!」
そして奏がやって来た
「空!」
「奏、ごめんね・・・迷惑ばかりかけて」
「国王だ!こいつのせいで俺達は苦しんでいるんだ!」
「貴様・・・空を殺したらどうなるかわかっているんだろうな」
「どうせ明日は飢えで死ぬかも知れない、殺されても悔いはない」
「空!」
「凱、俺・・・」
「無様だな!それとも魔法でも使うのか?」
「奏、早くしないと空が」
「火を付けろ!」
「間に合わない、空!」
「空・・・」
「嫌だよ、空!!楓、何とかしろよ」
「空が選ばれた人間だとすれば・・・もしかしたら」
「何言ってるんだよっ!楓!!」
藁はあっという間に燃え上がり、俺は炎に包みこまれた
こんな死に方は嫌だけど、勝手な行動をした俺が悪い
死ぬ前にもう一度奏に会いたかったな
「何だ貴様・・・」
「どうして死なないんだ」
確かに炎で焼かれているし服は焼けてしまった
でも体は無傷だ
どうして?
「奏、今のうちに」
「ああ」
そして一瞬であいつらは消えた
炎も消えた
「空っ!大丈夫か?」
「奏、ごめんね」
「とにかく城の中へ」
奏に抱き上げられて漸く安心する事が出来た
「これを着ろ」
「うん」
そう言えば裸だったんだ
ガウンを羽織りみんなを見つめた
「ほら、元気になるぞ」
「ありがとう凱」
綺麗な水を飲むと落ち着いたのと同時に急に恐怖に襲われて体が震えた
そんな俺の体を抱きしめながら奏は言った
「もう大丈夫だ、でもこの世界の人間は生きる為なら人を殺す事を覚えておけ」
「ごめんなさい」
「楓、さっきの言葉の意味は何なんだ?お前だけ妙に落ち着いていたよな」
「空はドラゴンの卵を託されたでしょ?」
「ああ、それで?」
「ある意味それは契約みたいなものでね」
「契約?」
「空はドラゴンの力も授かったんだよ」
「えっ?」
「だから火で焼かれても死なないんだ」
「そう言う事か」
「要するに今の空は無敵と言う事」
「でも怪我を」
「それは死なない程度の怪我だから」
「とにかく怪我を治そう」
「ありがとう、凱」
楓の説明は何となく理解出来た
ようするに俺は絶対この卵を孵化させなければいけないんだ
その為に俺はドラゴンの力で護られているんだ
「俺、空が焼かれた時気が狂いそうだった」
「俺もだよ、まさかあそこまで民衆は追い込まれているとは」
「奏、何とかしてよ!貴族だけがいい暮らしをするなんておかしいよ、みんなが幸せにならなければ意味が無いよ」
「奏、そろそろ現実に目を向けた方がいい、国王らしく仕事をした方がよさそうだね」
「・・・・・・・・」
「民衆から税金を絞り取っているのは誰なのか、ここにいては何も見えないよ」
「そうだな」
「奏の気持ちもわかるよ、戦争が続いていてそれどころじゃない事もわかる、でもここは奏の国なんだ」
「ああ」
「空はもう休んだ方がいいね、凱」
「わかった、行くぞ空」
「うん」
あんな色の世界は嫌だよ
普通に人間同士が殺し合ってる世界なんてもっと嫌だよ
どうしたら平和になれるんだろう
どうしたら戦争が終わるんだろう
でも俺には何も出来ない
力にもなれない
むしろ迷惑しかかけていない
「俺、甘く見ていた」
「ん?」
「ここにいると毎日ご馳走が食べられてふかふかのベッドで暖かく眠れるでしょ?」
「そうだな」
「じゃ、どうしてそんな生活が出来るの?」
「それは・・・」
「こんな国じゃ、敵が攻め込んで来ても誰も城を護ってくれないよ」
「確かに」
「魔法が使えるのならみんな幸せに暮らしているんだと思い込んでいたのに」
「空・・・」
「ごめん、余計な事だよね」
「いや、確かに空の言うとおりだ・・・俺達は城さえ護ればいいと思っていたしな」
「うん」
「護るべきものは城でありこの国なんだ」
「そうだよ」
「でもな・・・なかなか難しい問題でもあるんだ」
「うん」
「でも、奏ならきっと動いてくれるはずだ、信じようぜ」
「そうだね」
最初は魔法は便利だと思い込んでいた
でもここでは何の役にも立たないんだ
使える人はごく一部で、魔法が使えても使うと罪になる
でも、このままではいけないような気がして・・・
そんな事ばかり考えていたら一番鳥の鳴き声が遠くから聞こえて来た
「少し寝ないと」
この国に住んでいる人達は朝が来ると飢えと戦うんだね
今日一日、明日一日、生き延びる事しか考えられないんだろう
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