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1.僕はずっとあなたが好きでした。
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『好みのタイプ?うーん、小さくて目が大きくて可愛い子』
「中村ぁ、ずっと昔から変わんないね、このタイプの子って」
「…うん。あかん?」
「別にあかんくないけど、漠然としてんなーっていつも思っててんからさ」
「ま、ね。あんまり詳しく言わん方がええんよ、芸能界って」
「ふーん、そんなもんなんや。あ、俺もう時間やから行くな」
「いってらっしゃい」
そして松田くんは家を出て行きました。そして残ったのは松田くんの家に僕一人。ソファの上に広げて置かれた雑誌を手に取るとそこには、めちゃめちゃキメ顔でカッコイイ服を着せられた中村悟が写ってる。そう、これ僕。
綺麗に整頓された部屋の、これまた綺麗に片付けられたテーブルにその雑誌を投げて、僕はソファにうつ伏せになった。
「友希ぃ…」
雑誌やテレビではいつもキメ顔で、めっちゃ男前と評判の僕ですが、この部屋の住人のことになるととんとダメで、こんなに弱気な男になるなんて、きっと世界中の誰も知らんのやろうなぁ。
広がったままの雑誌の記事の真ん中くらいに、他の字よりも少しだけ大きく書かれた僕の女性のタイプ。
『小さくて目が大きくて可愛い子』
わかんないんだろうなあ。これって、松田くんのことなんですよ?松田君。
昔から言ってるやん。学生の頃からずっとずーっと。でも、友希に伝わるはずもなくもうこうやって何年も時を経てしまってんねんな。
僕と松田友希君の関係?
学生からの友人、正確に言うと先輩後輩。一年上の松田君に、一個下の僕。出会いはねぇ、そうやね、コンビニでヤンキーに絡まれてる僕を松田先輩が助けてくれたんがきっかけ。
身長180センチの僕を、身長約160センチの松田先輩がね。なんやったかな?確か、見るからにヤンキーって感じの人たちがいきなり「ちょっといい顔してるからっていい気になってんじゃねーぞ」って感じで絡んできたんやったかな?僕も別に喧嘩弱いわけやないけど、喧嘩したいわけでもなくて、めんどいのに引っかかったなぁ。って思ってたところに現れたんが、松田先輩。
「自分らなにしてんの」って、忘れもせえへんよ、チュッパチャップスのチョコバナナ味を咥えて現れたんよ、僕の想い人になる人が。
ちょっと長めの金髪で、おっきな目でそのヤンキー睨んで、一見男か女かわからんような顔立ちやけどめっちゃ勝気な目つきでさ。
そしたらその中の一人が「松田先輩や」って呟いたんよ。どうやら松田先輩って有名人やったみたいで(そりゃあんだけド金髪やったら目立つわ)しかも、実はめちゃ喧嘩が強いらしくて、可愛いけど怒らせたらやばい人ナンバーワン。ってことやったみたい。
「すんません、なんでもないっす」ってその人ら途端に腰低くなっちゃったまま、フェードアウトしてったんやったかな?
ていうか、松田先輩が現れてからというもの、そいつらなんてもうどうでも良くなってあんまり見てなかってん。
「自分、大丈夫?」って松田先輩が笑いかけてくれた瞬間、なんていうん?きゅんきゅんきちゃった、みたいな。
「背、おっきいね。羨ましいわ」
って笑った顔が忘れられへん。ほなな、ってそのまま帰って行こうとする松田先輩追っかけて、名前聞いて、お礼させてくださいってくっついてまわって、やっと一週間後に時間作ってもらってから、それから僕の人生、松田先輩中心に回ってんねん。
って、こんなに熱く語っても。。。
「うあ~…、友希ぃ」
そう、友希は全く振り向いてくれません。呼び名が松田先輩から、友希に変わっても、僕らの関係はなんら変化もしないまま、もう何年も過ぎてしまってんねん。
もちろん、ダイレクトに告白なんてしたことあれへんけど、それらしいことはずっと、ずーっと伝えてるつもりやねんで?でも、松田先輩は、ド、がつくほどの天然ちゃんで、頭良いくせに、そういうことには全く疎くて、僕も実はビビリやから思い切った告白なんてできてなくて。って悪循環。
今日やって、雑誌わざと開いて置いてみてんけど、今から学校に行く友希は準備に大忙しって感じでちらとしか見てくれへんやった。
「我ながら、姑息…」
そんな自分に嫌気が差してもこんなことしかできひんもん。
今日は何時に帰ってくんのかな?ていうか、僕も仕事行く時間やん。
プルルルル
ちょうどマネージャーからの電話が入る。
『悟、起きてるか?あと30分くらいで迎えに行くで?』
「うん、よろしく…」
『…元気ないなぁ。もしかして、また松田さんとこか?』
「え、ええやんっ」
『やっぱりか。まあええ、あとでゆっくり聞いてやるからさっさと準備して待っとけ』
「…うん」
このマネージャー。言葉は悪いわ勘は鋭いわ、ほんま何者やねん。ディスプレイを見て「鈴木マネ」という文字を消した。
のそのそと重たい体を引き摺ってキッチンに入り、冷蔵庫から水を取ってそのまま飲む。あ、もうなくなりそう。ごめん友希。
「水買ってきて」とマネにメールを打った。
ぱちんと携帯を閉じて、そろそろスマホデビューかとか思いながら玄関に向かい、ポケットから友希の家の鍵を取り出してサンダルを履いた。
「あー、友希ぃ」
また同じことを呟いて肩を落とした後、深呼吸して玄関を出る。ぱたんと静かに閉まったドアに鍵を掛けてから、もう一つ鍵を取り出す。チャラと指に引っ掛けて隣の部屋の鍵を開ける。そう、僕と友希はお隣さん。
色々あってこんな生活してるんやけど、それはこれから少しずつ話せたらね。
冷え切った部屋に入って適当に服を選ぶ。僕、モデルやねんけど服とかどうでもええねん。着せてくれるもん着ときゃええんやろ?
「そういや、水あった気がする」
キッチンに入って、友希の家よりも小さい冷蔵庫を覗くと、開けてへんミネラルウォーターが入ってた。これあげればよかった。
「ま、ええか。いくつあってもええし」
時計を見るともう直ぐ八時。時間にきっかりのマネやからちゃんと準備しとかんと。携帯と財布と鍵だけポケットに突っ込んで家を出た。3階のフロアから下を見下ろすと事務所の車が停まるのが見えた。
「さすが、鈴木さん」
エレベーターで降りるとすぐに鈴木さんがおった。
「おーおー、今日も相変わらず冴えへん顔しとるなぁ」
「…それが今をときめくモデルに言う言葉ぁ?」
「俺は見たまんま言うてるだけや。ほら、さっさと仕事行くで」
「ふぁーい」
ぽんぽんと頭を叩かれて車に乗った。車に乗ったら聞いてもらおう。今日の僕と友希の出来事を。って日課になってるけど、鈴木さんは呆れながらも笑いながら聞いてくれるから聞いて貰おう。そして、明日の鋭気に繋げるんや!
頑張れ、僕!
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