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慶太の恋②/前編(番外編)にしおりをはさみました!
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慶太の恋②/前編(番外編)
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俺は、花屋に恋をした。
それも、ゲ○のくせに、ノンケに。
わかってるよ。
身の程知らずだって。
「…………………………青木さん?」
それは、突然やって来た。
3日振りの、青木さん。
本当は毎日来たいが、さすがに引かれそうだから、せめて週2。
俺は、店のカウンターに飾るからと(嘘だけど)、青木さんに毎週花束を注文する。
今日は、その注文日。
内心ルンルンで花屋を訪れた俺は、いつもと違う景色に視線を奪われる。
シャキ…………シャキ……………
ハラハラと落ちる、薔薇の茎。
もう、それ以上行くと手を切っちゃう。
それ位、薔薇にハサミを入れている青木さんは、ボーッとひたすら茎を切っていた。
「危ない…………………っ!!」
咄嗟に、俺は青木さんの腕を掴んだ。
「あ……………………け、慶太くん………………」
赤い目で振り返る、青木さんの驚いた顔。
もしかして、泣いてた……………?
それだけで、胸がキュン。
ヤバい、青木さん………………たまんない。
これが彼氏なら、確実に抱きしめてる。
「す、すみません……………手が、危ないなって………」
俺は、高鳴る鼓動を懸命に抑え、青木さんの腕を離した。
ノンケを演じるって、難しい。
普通って、何。
物心ついた時から、男が好き。
今更、何が普通なのかも、わからない。
「はぁぁっ!!ホントだっ、薔薇がっ!!」
我に返った青木さんの、第一声。
さすが、花屋!
じゃなくて、あんたの手の方が、俺は大事だよ!
それが言えたら苦労しない。
「ぅわぁぁぁ………………どうしよう、薔薇。可哀想な事しちゃったな……………………」
茎をあと5㎝だけ残した、真っ赤な薔薇。
それを、可哀想。
俺の様に、青木さんに会いたいだけに花を買う下心満載の馬鹿にしてみたら、その綺麗さに手を翳しそうになる。
青木さん、あんたは俺には眩しすぎる。
「………………………それで?どうしたんですか?そんなに落ち込んで…………………」
足元に散らばった茎を広い集め、俺は気になった事を訊ねる。
勿論、心臓はバクバク。
聞いていいのか、ダメなのか、それさえも不安。
「え……………………ああ……………ん……………落ち込んだように見える?……………………俺」
「………………………見えます、モロ」
「はは………………………やっぱり……………」
ハサミを置き、自分を見てくる青木さんの、苦笑い。
やっぱり。
それを口にすると、青木さんは俯いた。
いつ会っても、明るくて優しかった瞳を下に向け、軽く唇を噛む。
何だろう、この人。
確か、俺より6つは歳上の筈なのに、こんなに守りたくなるのは。
酷だよ、神様。
手を伸ばせば届くのに、触れる事もままならない。
「…………………………俺、フラれちゃったんだよね」
そのくせ、俺をどんどん惹き付ける。
「は…………………………」
ズルい一言。
一瞬、ヤッター!って叫びそうになった、最低なゲ○野郎。
だけど、それも直ぐに消えた。
『フラれちゃったんだよね』
そう告白した青木さんは、また泣きそうな顔で目を伏せてしまったから。
本当に好きだったんだな。
人の失恋で、ここまで胸が苦しいのは初めてだ。
「クス…………………情けないね。歳下の慶太くんに、こんな顔……………………」
「そんな事ないです。誰だって、恋が突然終わるのは哀しい……………………それが、本気であればあるほど、辛くて当然です」
俺なんか、始める事も出来ない。
好きです。
何度、それを花屋の帰りに口ずさんだ事か。
「け……………………慶太くん、大人…………………俺なんかより、断然大人だね!」
「いや…………………………」
その分、散々フラれて来たんで。
潤んだ瞳をキラキラさせて、俺の言葉に感動する青木さん。
可愛い過ぎる。
好きです、好きです、好きです!!
何万回でも叫びたい。
「彼女も………………慶太くんみたいな男子だったら、幸せだったかもなぁ……………………」
「……………………………え?」
「花の世話にかまけて、彼女の寂しさに気付いてあげられなかった」
作業台に寝かされた、沢山の薔薇。
その脇にちょこんと置かれた、茎の短くなった薔薇が、自分に見えた。
俺みたいな男子。
俺みたいな男子からしてみたら、青木さんみたいな男子の方が、遥かに人を幸せに出来ると思います。
自分は、人とは違うんだ。
幼い頃は誰にも言えなくて、周りの目にビクビクしていた。
幸せなんて、見た目じゃ計れないですよ。
「俺…………………昔から、花屋をするのが夢で…………何て言うか、花を買う人達の嬉しそうな笑顔を見るのが好きでね。ずっと他所の店で修行してて、一昨年ここをオープン出来た時は、スゴく感動したんだ」
微かに頬を赤らめ、照れ臭そうに口を開く、青木さんの声が、静かな店内に広がる。
一昨年のオープン。
まだ若い青木さんが、店を持つ。
自分も父親を見てきたからわかるけど、それはとっても大変だったと思う。
感動して、当たり前。
青木さんにとって、この店は命よりも大切な場所じゃないのだろうか。
作業台の薔薇を片付けながら語りだした青木さんを見つめ、俺は青木さんの気持ちばかりを考えた。
ズンズン、ズンズン。
こうやって、青木さんの事を知れば知るほど、想いは募る。
諦めなきゃって、ウンザリする位言い聞かせて来たのに。
「でも、まだオープンして3年目………………利益も少ないから従業員も増やす余裕無くて、俺は休みを取れないし……………………彼女の『大丈夫』に、甘えてたんだよね………………………結婚だって…………………」
結婚だって…………………。
その瞬間、胸にズシンッと錘がのしかかる。
結婚。
俺には、叶えてあげられない現実。
俺が彼氏だって紹介されたら、青木さんの両親は猛烈に反対するに決まってる。
誰もが楽しみにする、孫の顔すら見せてあげられないのだ。
第一、青木さんは女子が好き。
「あー、ごめんっ!女々しい話ばっかり!しっかりしなきゃ…………………花達は、待ってくれない!毎日世話をしてあげないと、みるみる弱っていく。生きてるんだもんね………………………花達………………も」
……………………………も。
と同時に、青木さんの頬には一筋の涙。
「青木さん………………っ」
苦しい。
何もしてあげられない自分に。
俺は、たまらず青木さんの手を握りしめた。
「慶太く…………………」
「俺はっ……………………俺は、どんな青木さんも、好きです。花を大切に扱う青木さんも、客達と楽しそうに話す青木さんも、弱った花に『ゴメンね』って……『ゴメンね』って、囁く青木さんも………………全部、全部好きですよっ!大好きな人を失って、女々しくなったっていいじゃないですか!それも皆、青木さんなんですからっ!!」
「へ……………………」
赤く染まる肌と、戸惑う瞳。
やってしまった。
やってしまったよ、俺。
青木さんの涙に、我慢が出来なかった。
「すみませんっ…………………すみません、気持ち悪い真似して………………………っ」
握っていた手を離し、俺は青木さんの声を聞く前に頭を下げた。
それからは、何も見えなかった。
青木さんの姿を振り切るように店を飛び出し、とにかく遠くへ、遠くへと走った。
「クソ……………………クソ…」
今まで、必死に踏ん張って来たのに、全てを無駄にした。
視界が、よく見えねぇよ……………………。
気付いた時には、親父の店の近くまで戻っていた。
「…………………っ……………ぅう」
側にあった電柱に手を突き、俺は膝から崩れ落ちる。
終わった。
青木さんの恋と一緒に、俺の恋も終わったんだ。
「青木さん………………青木さん…………っ」
落ち込む青木さんにあんな事言うなんて、最低だ。
余計に、動揺させただけじゃないか。
「…………………………馬鹿野郎」
アスファルトに染み込む自分の涙が、ポツポツと数を増やす。
失恋。
「やっぱ…………………………痛ぇな………………」
わかっていたのに、それは胸を引き裂く。
(申し訳ありません。一話では、収まりきれませんでした。私の力不足です。後編、少しお時間下さいませ(>.<))
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