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違和感にしおりをはさみました!
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違和感
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「菊ちゃん、雪…じゃなかったネーヴェはどう?」
樹雨は入り口に背を向け、ベッドの前に立っている菊嘉へ声をかけた。ふと、様子がおかしい事に気付く。彼の手から注射器が滑り落ちて、軽い音を立てて床へ転がる。次に、その体が揺らいだ。
「菊ちゃん!!」
素早く抱き留め顔を見れば、ごめん…唇が微かに動く。
「え!ちょっと、菊ちゃん!!何で!?これ、自分に打ったの?」
片側だけ捲られた袖、左腕には注射の痕がある。もう彼の意識は混濁し始め、樹雨の腕の中で瞼を閉じてしまう。
「菊ちゃん…、」
風太は、リビングの隅に置いてある大型のスーツケースを見付けた。備え付けのクローゼットには何も収納されていなかったので、此処へは移動して間も無いのだろうと判断した。
「良かった、タオルも着替えもある。」
シャツとタオルを取り出そうとし、ふと手を止めた。よく見れば、スーツケースの中身の服は安価な新品ばかりで、探ってもパスポートなどの身分を証明するものが見当たらない。
彼が脱いだジャケットがソファーに置いてあるのに手を伸ばす。それは風太をさらった時に着ていたものだ。ポケットを探るが、唯一入っている財布は何処にでも売ってある様な簡素な安物で、日本円が入っているばかりだ。
「やっぱり身分証が無い。」
これがアルバーニの本来使用している財布とは思えない。今手に持っているジャケットと、アルバーニが身に着けている服だけが浮いている。
取り敢えず服とタオルを持ち、何故なのか考えながら、アルバーニの居る部屋を目指す。必要な物を日本で揃えたからなのか…しかし、それでは身分証が無い理由にはならない。しかも、今まで滞在していた間の荷物は何処へ行ったのか。
「あ!そっか。他に宿泊中のホテルがあるんだっけ、そこに招待するとか言ってたもんな。」
しかし腑に落ちない。この違和感は、思えばずっとあった。あの男が何の抵抗という抵抗も無く倒された事も疑問だった。随所で見せた彼の身のこなしからは想像も出来ないくらい呆気ない倒れ方だった。
「彼は、何で樹雨との約束を破ったんだ?そんな事をしたら取引が出来なくなるのに…それどころか狼男相手なんだから殺される可能性だって、」
樹雨はビデオで激昂し、アルバーニの首を狙う直前に「死ね、」と呟きすらした。風太にも分かるくらいの殺気を放っていたのだ。
「もしかしてわざとやられた?それって何の為に。」
そこで導き出した答えに愕然とする。風太は、彼の思惑に気付き部屋の前で足を止めた。半開きの扉の向こうには、倒れたままのアルバーニが見える。首を狙われた割には出血量もそんなに多くない、彼は急所を外す事に成功していた。
「そうだよ…わざとなんだ。彼は狼男の血を自分に入れたかったんじゃないか、」
風太の性格は彼に読まれていた。樹雨の手により瀕死の状態に陥った場合、風太なら助けを求めるだろう。そこで穏便に解決するなら狼男の血が最適だ。
「くそっ、やられた!」
急いで樹雨と菊嘉が居る部屋へ向かう。この考えを話したところで、もう結果は変えようがないだろう。それでも、足は止まらなかった。
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