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一通り館内をみてまわる。きいろは、水槽で泳ぐウミガメをみて、「いつか、ステラを日本一の水族館に展示しよう」と闘志を燃やしていた。
「ただの、ミドリカメなのに。ステラ、きっと俺たちのもとで暮らす方か好きだって」
「みどりがいうなら、間違いないね」
展示はおわり、出口付近のお土産コーナーを最後にみてまわる。小さな子供がぬいぐるみを抱えて泣いていた。それを父親らしき人物がなだめていた。
「あの人は、元気かな」
ぽつりときいろは呟く。
きいろは返事など求めてないのだろう。俺も聞こえないふりをした。
なにも買うことなく、水族館をでてちょうど海のみえるベンチに二人して座る。近くには、何組かカップルがいた。風が強く、少し肌寒い。
「みどりのおかげで今日は楽しめたよ。絵も描けそうだ」
風できいろの綺麗な髪がなびく。
「展示会は、12月だからね。11月が来る前に完成させたいんだ。」
きいろは、11月になると不調になる。筆は早い方だけど、納得ができなければいくら描き込んでいても完成させることはない。未完の作品もたくさんあるといっていた。そして、1度描けなくなったら復活するまでに時間を要した。アトリエからでてこなくなり、食事をまともにとらない。
絵を描くことは自分にとって息をすることだと言っていた。だから、11月は、息をするのが苦しいとも言っていた。一枚完成させる度に、食を疎かにし、結果痩せてしまうきいろは、繊細で根から芸術家なのだとつくづく感じる。
きいろは主に抽象画ばかり描くけれど、模写も得意だ。物体の質感や色味を忠実に完璧に再現した。けれど、昔から人間を描くのは苦手だといっていた。
1度、きいろの描いた人物画をみたことがある。髪や筋肉など風景やモノを描いているように綺麗だった。しかし、唯一の欠点があった。どの人物画にも表情が欠落していた。精巧な人形のようで、躍動感や溢れ出す生気がなかった。感情が抜け落ちた、不完全な絵だと自身で評していた。きいろは課題以外は、好んで人間を描かなかった。
「このあと取り置きしてもらってた新しいキャンバス、買いにいっていいかな」
「俺は全然構わないよ」
「新しいサイズに挑戦しようと思って。最近、課題も多くてささっと終わらせなきゃ。みどり、レポートは?」
「昨日終わらせた。きいろと違ってすぐ取り掛かるからな」
「意地悪言わないで。嫌いだよ課題は。そうと決まったら、行こう。ここにもう用はないからね」
「ああ」
「みどり、今日はありがとう。また、遊びに来よう」
そう言って、立ち上がった。日も暮れ、急がなきゃ、だっしゅ!と走り出すきいろの後ろをついていく。
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