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男娼とヤクザ/シリーズ4(第25話)にしおりをはさみました!
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男娼とヤクザ/シリーズ4(第25話)
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「なんや…………あのガキ、もう出て行ったんか」
暖かい日差しが、ビルの窓から注ぎ込む。
いつもより静けさを感じる、穏やかな昼下がり。
休日を返上して事務仕事を片付けに来ていた高橋は、不意の訪問者に顔を上げる。
「上地……………」
「嵩原、迎えに来たんやろ?」
ドカッとソファへ腰を下ろし、仏頂面で話す厳つさは相も変わらず。
愛想は無いが、意外と心根は悪くない。
3ヶ月、大和が高橋の下で働き始めてから、何度顔を見に来たか。
「クス………えらい耳が早いな。おらんなって、寂しゅうなったか」
「アホ言え。何で俺が、あないな泣きベソ……偶々、嵩原からより戻したって聞いたからだけや」
「そうなん?………ま、言うても仕事は辞めてへんから、明日からまた毎日来るけどな」
「……………あ?」
眉間にシワを寄せる上地に、高橋の表情はまた緩む。
高橋は、知っている。
上地が、会いに来れない嵩原の代わりに、大和を気にしてやっていた事。
無愛想に話しかけながらも、目の下に隈でも作っていたら、何があったのかと然り気無く聞いたりもしてた。
いつからかだろうか、上地が少し変わったように感じたのは。
「……………珈琲飲むやろ」
「ああ……………」
以前みたいに、自分を強引に求める事もなくなった。
たまに来ても、他愛ない会話や仕事で困った事がないか、気遣ってくれる位。
昔、何故上地を愛してしまったのか、わからなくて苦しんだ時期が懐かしい。
人間は、なんて都合の良い思考をしているのか。
今の上地が嫌いじゃないと思う、自分がいる。
腐れ縁。
そうなのだろうか?
身体を重ねた分だけ、上地へ情があるのは否めない。
「なぁ、上地…………」
「ん……………?」
「最近、優しゅうなったな」
「……………は」
キョトンとする上地の顔を見つめ、高橋は珈琲カップを差し出した。
「嵩原の影響?…………嫌いやねぇなて」
「すまんかったな、これまでが嫌な野郎で」
「ようわかっとるやん」
「うっせぇ…………」
上地はムッとしながらも、差し出された珈琲を口へと注ぐ。
そして、窓から見える小さな青空を眺め、おもむろに呟いた。
「ただ………悪うねぇとは思うた。ガキなんぞに本気になった自分を受け入れて、相手の事を何よりも大事にしたる嵩原の愛し方が」
「え……………」
「俺ァ、お前を失いとうのうて、奪う事しか考えてへんかった………でも、それじゃあかん。嵩原みたいに、惚れた奴の気持ちに寄り添ってもねぇ………嫌われて当然やなと。だったら、少しでも償いてぇ。今更かもしれんが、散々傷付けたお前へ、こないな俺でも出来る限りの事でな」
「上地……………」
愛してる。
今でも、上地は高橋を愛してる。
その愛し方が、変わっただけ。
「…………惚れた弱みや。靴舐めたってかまへんで」
「アホ……………」
苦笑する高橋に、これがどう伝わったか。
もう、いい大人。
いちいち口にもしない。
しかし、それからも上地が高橋の元を訪れる姿は、度々目撃されている。
「は?今日の飯、お前が作るって?」
「うん…………湊がな、急用で来られへんようなってしもうたらしいわ」
大人達の関係に、微かな変化が訪れようとしていた頃、こちらは仲睦まじい姿を堂々と晒してる。
やっと本当に結ばれた、大和と嵩原。
今日は二人で待ち合わせをし、仲良くお買い物。
「いや…………なら、外食でええやろ」
「何で?ちゃんとレシピは、湊に送ってもろうたよ」
「レシピの問題やのうてやな…………」
「……………はい?」
今夜、湊が来て手料理を披露してくれる約束をしていた、嵩原家。
安定した腕前の湊のご飯だと、何も心配してなかった嵩原は、衝撃的事実に言葉に詰まる。
湊が、来れなくなったやと?
マジか。
「お前、目玉焼き作れたか?」
「失礼やな!毎朝作ってるやんっ」
「いつも目玉ねぇやないか…………なんなら、原型もわからんぞ」
「それは、偶々やて。今日は大丈夫!」
ガッツポーズをする大和は可愛いが、残念な事に料理の腕は毎日が修羅場。
豪邸のキッチンは、目玉焼き一つ作るのに、地震でも起きたような荒れっぷり。
「だ……………」
大丈夫ではない。
夕食なんて高度な技、まず無理だとしか思えない。
文句も言わず焦げ臭い目玉焼きを食べて来た嵩原も、さすがに頭を抱えた。
今夜は、地震と台風が一度に襲来するわ…………。
「なあ、嵩原…………ひき肉って、何」
「そこからか………っ!」
街角の道端で湊からのレシピを眺める大和に、嵩原は絶句した。
「シュウさん………っ!!」
そんな時、突然近くで聞き慣れた名前が、大和の耳を掠めた。
シュウさん。
「へ…………シュ…」
慌てて顔を上げた大和は、辺りを見渡しその声の主を捜した。
「どないした、大和…………知り合いか?」
「あ…………ん……」
「シュウさん………っ!!」
間違いない。
この声は、以前もシュウを呼んでいたあの時の声。
「シュウ…………」
まさか側にいるのか、シュウ達が…………!
大和がそう思って振り返った瞬間、例の美しい姿が視界を過った。
春色の淡いブルーのロングカーディガンを靡かせ、栗色に染めた髪が太陽の光で輝く。
長い睫毛と綺麗な赤い唇。
くっきり二重のハーフのような出で立ち。
「シュ……………」
紛れもなく、シュウだった。
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