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海へ出た初夏の旅1にしおりをはさみました!
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海へ出た初夏の旅1
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こちらはキスの日(5月24日)に書いたSSです。新しいお話がこれに続きます。
(葵語り)
季節は初夏を迎えていた。
バイトも無いとある土曜日に、先生と休日を過ごすことになった。先生も仕事が休みで、オフが重なることは珍しい。互いにバイトや仕事があることが多かったから、1日空くのは偶にしか無い。判明した1週間前からわくわくしていた。何をしようかな。
朝起きて、朝ごはんを食べて、洗濯をする。
ほぼ同棲状態の俺たちは、生活リズムもほぼ同じだ。休みの日だから眠りたい先生を無理やり起こして、スケジュールの相談をする。
こんないい天気の日に家にいるなんて勿体無い。窓を開けると、夏の匂いがした。濃い空色が太陽の光を連れてくる。洗濯物がすぐ乾きそうだ。
「ねぇ、先生。久々のオフだからどこか遠出しようよ。」
ベランダで、無精髭を生やしTシャツに短パン姿でタバコを吸う先生の隣に座った。
不機嫌が煙を出し入れしている。快晴には白い煙が不釣り合いだ。
「えぇーー、天気が良すぎないか。だるいし……家で寝たい。ゴロゴロさせて。30過ぎたら溜まった疲れが取れないんだ。」
「なんでそんなこと言うんだよ。最近どこにも連れてってもらってないし。先生とどっか行きたい。」
「じゃあさ、近所の中華屋さんは?葵が食べたいって言ってた麻婆茄子を食べよう。」
食べ物で釣ればいいと思ってる辺り、感じが悪い。確かに、麻婆茄子は食べたいけど、惑わされないよ。
「そんなの、いつでも行けるじゃん。ねぇ、海、海に行こうよ。」
「海ってまた、そこそこ遠いじゃないか。この間だって東雲と会った時も行ったし。」
「あれは近場の海。俺が行きたいのは先生の実家の近くの海。」
「え、マジでか。もうちょっと……違うところはないか。何度も言うけど遠いんだよ。」
先生の実家は車で1時間と少しだ。そんなに遠くはないと思うんだけど、今日の先生はなんだか渋っていた。
「むむむ……どうしてもダメ?」
「母の日に葵が花を贈っただろう。母さんがさ、葵を連れてこいって煩くて。実家の近くに出没していたことがバレたら、その後のライン攻撃が怖い。精神が疲弊する。」
今年の母の日は、自分の母さんと、先生のお母さんに花を贈った。日頃お世話になっているからと軽い気持ちで贈ったのに、何やら春子さんから煩く言われているらしい。
俺にはお礼のメッセージが来ただけだ。
「海に行くなら、実家にも顔出すからな。葵の苦手な父さんもいるぞ。和樹(弟)もいるかもしれないし、それが良ければどうぞ。」
観念したように、先生がすぱーーと煙を吐いた。うーん。春子さんにも会いたい。海にも行きたい。だけど、お父さんはまだまだ苦手でできれば避けたいし、でも、でも、やっぱり海にも行きたい。どうしよ。
「うーん、悩む。」
「おう、悩め悩め。大いに悩め。そのうち悩むことに疲れて、自分の家でいいことに気付くだろうよ。自堕落最高。」
俺の中の天秤は、グラグラと揺れていた。暫くすると先生の言った通りどちらでも良くなってくる。行ったら、楽しいより気疲れが勝ちそうだ。気を使わなくていい快適な空間でおとなしくダレていようか。疲れている恋人を癒してあげてもいいし。
「うーん。どうしよ。」
「あ、葵。顔に何かゴミが付いてる。」
こっちむいて、と言われてすぐ先生の方へ顔を向けると、唇に軽くキスをされた。
「…………今、ゴミがって言ったよね。」
「言った。けど、可愛い方が勝ったから、キスしてみた。」
「可愛いって、禁止用語………」
背中の網戸の弾力が程よく身体を跳ねさせる。『可愛い』は禁句だ。言われたら羞恥と甘さに包まれてしまうから、身動きが取れなくなるのだ。全身がムズムズする。
「可愛いもんはしょうがないね。可愛いものにキスしたくなるのは当然だ。ところで、どこに行くか決めたか?」
睨んだ俺に先生がもう一度キスをくれた。今度は押さえつけるように、柔らかい唇がむにゅーっと重なった。タバコの苦味が口に入ってきたが、慣れっこだ。
次第に舌が侵入し、俺の上顎を舐めてきた。この人は、俺の返事を聞く気はないらしい。白い煙が風に吹かれて飛んで行くのが視界の端に見えた。
「………ふっ……ん、ちょっ………」
いきなりのガチキスにびっくりした俺が先生のTシャツの腕部分を掴むと、頭に手が回ってきて動かないように固定された。口の奥まで挿ってくる。
生ぬるい感覚が心地よくて、味わうように先生の舌をしゃぶった。美味しい。苦味が消えてほのかに甘い味がする。口を離すと、朝日に唾液が反射してキラキラと光り、スズメの鳴き声がベランダに響いた。
「葵、決めた?それともキスする?」
先生の手が頬に触れて、髪を撫でた。俺の髪の毛は猫っ毛で柔らかいため、癖のように手で漉かれる事が多い。気持ちのいい風がベランダをすり抜けて、網戸越しのカーテンを揺らした。
「ん……と、決めた。けど、キスもちょうだい。」
「相変わらず欲張りだな。」
再び口づけを交わしながら、俺は春子さんに会うことを楽しみに思った。
キスが終わったら、先生の実家へ行こう。
潮の香りが心から恋しくなった。
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