アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
そうだ京都へ行こう7にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
そうだ京都へ行こう7
-
(葵語り)
野田さんが案内してくれたのは、個室で日本庭園が見える料亭のような場所だった。静かだけど敷居が高い。俺みたいな学生はまず入ることはないだろう。
「ここは、うちのオリジナルツアーの昼食をお願いしようと思ってるところです。食べて感想を教えてもらえますか。詳しいと助かります。葵君も分かった?」
「はーい。」
聞くところによると、そのツアーはシニア層を対象とした〝贅沢な京都旅〟がテーマらしい。確かに、こんな所でゆったりとご飯が食べれたら贅沢だろう。食事の内容より異空間で過ごす時間の方が価値がある。
室内に入ると、新しい畳の匂いがした。俺は松山さんの隣に座った。机を挟んだ正面には先生がいる。
少しして二段のお重に入ったプチ懐石のような料理が来た。開けてびっくりする。あまりこういうのは食べたことが無い。確かに女性が好きそうな野菜を沢山使ったおばんざいがぎっしりと詰まっていた。
先ず、フキの煮物を食べると出汁の香りが口いっぱいに広がった。下の段の手毬寿司も綺麗で食べるのが勿体無い。目で楽しむ所はスイーツに共通するものがあった。
でも、俺の嫌いな大きな椎茸が入っている。
残そうかな……失礼になるかな……
食べれるかな……むむむ。
「松山さん、葵はお仕事のご迷惑になっていませんか?」
微妙な空気を打破するように、先生が口を開いた。俺は途中で来た揚げたての天ぷらを食べるのに夢中で、あまり聞いていなかったけど、野田さんは2人の顔がめちゃくちゃ怖かったと後で言っていた。
「いいえ。全くです。寧ろ助かってますよ。熊谷さんは葵君とお付き合いしてるんですね。歳も離れてるし、同性同士で色々大変じゃないですか。この間から彼が色々と悩んでいるようだったので、京都に連れ出して発散してもらおうと思ったんです。沢山笑ってくれて良かった。」
「いいえ、大変なことは全く無いです。同性とかも関係ない。もうすぐ付き合って3年になるんですよ。葵が傍に居てくれるだけでいいんです。こいつは愛想笑いが得意で、お人好しってよく言われますから。大体は心から笑っていないですよ。俺が見れば分かります。」
ふと天ぷらから顔を上げると、先生と松山さんが睨み合っていた。
「葵君は何事も我慢する子だから、きっと悩んでても熊谷さんには言えないんでしょうね。この間も膝を抱えて泣いてましたよ。可哀想に。何事も独りよがりじゃないんですか。」
「他人のあなたは心配しなくても大丈夫です。いつの事かは知りませんが、解決しましたから。今はほぼ一緒に暮らしているので、何にも我慢させてないです。やりたいようにやらせてます。あ、葵。椎茸残さない。美味しいのに。」
バレないように隅に寄せていたものが見つかった。ひょいと先生がそれを口に入れる。
「先生だって人参残してるじゃん。」
「……俺は大人だからいいの。」
屁理屈だな。今度は俺が人参を口に入れた。
「うん。美味しい。」
「葵、海老いるか?ほら。」
「欲しい。あーんして。あのさ、これと何か交換して。」
「いいよ。」
海老を口に入れてもらい、苦手な酸っぱいレンコンと卵焼きを交換してもらう。これも出汁の味が優しい卵焼きだ。うん、美味しい。
「ねえ、今夜は先生の家に帰ってもいい?」
「俺は最初からそのつもりだけど。」
なんだか迎えに来てくれたみたいで嬉しい。会いたい気持ちが通じたのかな。
「あのさ……そういうのは家でやってくれない?……松山さん、いつもこうなんですよ。2人は本当に仲が良くて、羨ましい限りです。」
野田さんが頬杖を突き、俺たちを見て言った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
31 / 161