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熊谷家の人々1にしおりをはさみました!
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熊谷家の人々1
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(葵語り)
ソファで寝落ちしてから眼が覚めると、時刻は早朝4時を過ぎていた。辺りはまだ真っ暗だ。
先生は……まだ帰って来ない。
電話に出なかったことを怒っているのかな。
島田と出掛けたことが嫌だったとか。
本当にどうしたんだろうか。心配して送ったLINEも既読にならなかった。
寝室のベッドに移動して、再び横になる。勿論眠れる訳もなく、先生がいないと寒くて凍えてしまいそうだ。
ぽんっぽんと誰もいない隣の枕を軽く叩いて、1人で布団に包まった。1人で寝るのは久しぶりだなと思ったら、鼻の奥がツンとして涙が滲んでくる。耳鳴りがするくらいの静けさが孤独をさらに深いものにしていた。
先生、早く帰ってきて………
鳴らない携帯を握りながら咽び泣いていたら、玄関の鍵が開いた。
「………葵………ただいま……」
先生の声が聞こえて、荷物を床に置く音がした。真っ直ぐにこちらへやってくる足音と気配もする。
もの凄く嬉しくて今すぐにでも飛び付きたい衝動に駆られたけど、我慢する。放ったらかしにされたから、少しくらい俺も怒りたい。
黙ってそのまま布団で丸まっていると、先生が中に入ってきた。煙草では無く、珍しく消毒液のような匂いを纏っている。丸まる俺を後ろから抱きしめて、独り言のように話し出した。
「昨日はごめんな。折角の記念日を急にキャンセルして。実は……母さんが事故して、今まで地元の病院に行ってたんだ。親父も狼狽えて使いものにならないし、入院手続きをしていたらこんな時間になった。
やっぱり葵が1番落ち着く。安心する。本当に疲れた………」
「えっっっ、お母さんが事故したの?」
驚いた俺がくるりと回転し、先生を除き込んだ。疲弊した表情の先生が苦笑する。
「なんだ、起きてんじゃん。葵……ちゃんと顔見せて。ごめんな。海、楽しかった?」
優しく頭を撫でられて、触れるだけのキスを貰った。自分からも唇を重ねて、何度もキスを繰り返す。そうして互いの気が済むと、会話の続きを始めた。たった半日離れていただけなのに、会えた歓びは計り知れなかった。
「海、寒かったよ。お母さんのこと、なんで教えてくれなかったの?」
「電話に出なかったのは葵だろう?当て付けのように島田とドライブに行くってLINEが来たから、怒ってるのは感じてた。
とにかく俺もパニックになってたから、ゆっくり説明ができなかったんだよ。
本当は実家で仮眠を取ろうかと思ったけど、高速飛ばして帰って来て良かった。俺の帰る場所はここしかないわ。ちょっと寝ていい?安心したら急に眠くなってきた。」
よっぽど疲れていたのだろう。張り詰めた糸が切れたかのように、うつろうつろし始めた。いつもやって貰ってるように、首の下に腕を通して腕枕をし、先生を抱きしめる。
「葵……3年間ありがとな。これからもよろしく。」
「俺もありがとう。おやすみ。」
なんだか弱って見える先生を心から守ってあげたいと思った。島田が言っていた『守りたい』はこんな気持ちのことだろうか。
だったら先生より大切なものは他に無い。
島田も意地張ってないで彗さんに素直になればいいのに、天邪鬼は困るな。
愛しい人の寝顔を眺めながら、俺も眠ることにした。腕枕って結構疲れる。
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