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熊谷家の人々12にしおりをはさみました!
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熊谷家の人々12
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(葵語り)
「やっぱり、裕ちゃんでしょ。僕のこと分かる?ほら、隣に住んでた……」
先生が怪訝そうな顔で、その人を凝視した。『裕ちゃん』なんて呼び方に幼馴染的な関係を想像したけど、違うのかな。裕ちゃん……な先生も可愛いかもしれない。
涙で潤んだ瞳で2人を見ながら、確かに年齢も同じくらいだなと考えていた。
「あ………もしかして雅人か?戻ってきてたんだ。高校以来じゃないか。今はここで働いてんの?医大に進学したもんな。」
「そう。ここの勤務医やってるんだ。裕ちゃんは高校の先生だよね。相変わらずかっこいい。春子おばさんのこと聞いたよ。大変だったね。僕もちょくちょく様子見に行くからさ、連絡先教えてくれない?」
雅人さんは内科の医師らしく、見た目同様物腰が柔らかい人だった。早速2人は連絡先の交換を始めたが、俺と先生の手は繋がれたままだった。むしろ、逃げないように引っ張られているような気すらする。
もうどこにも行かないってば。
「じゃあまた連絡するね。で、この子は裕ちゃんどどういう関係?さっきまでずっと泣いてたよ。もしかして生徒さんとか?」
俺に視線を送りながら、雅人さんが先生に聞いた。やっぱり同性って目立つのかな。好奇の視線に晒されて疲れた。またかと俺はぎゅっと目を瞑る。
「ああ……こいつは……なんだろ。想像に任せるわ。雅人、母さんのことよろしくな。ほら、葵は帰るぞ。」
「そう。わかった。また連絡するね。」
ぐいっと腕を引っ張られて、その場を後にした。
病院を出て、手を引かれたまま駐車場を通り抜け、近くの公園まで無言で歩いた。先生の手の暖かさを頼りに前へ進む。
海沿いにある公園は日差しがたっぷりと注ぎ、何組か親子連れが来ていた。
みんなから離れた所に木の死角となるベンチがあり、そこに腰掛けて、暫く波の音を聞いていた。
ずっと手を繋いでいるけど、ここは先生の地元だ。バレてもいいのかな。一気に不安が胸を上がって来る。
今までは俺とのことを全く恥じない先生を見て、愛されているんだと嬉しかった。だけど、今回のことで別の感情が芽生え始めていた。ウジウジしている自分に嫌気が刺してきたのだ。
「…………怒ってるよな?親父に会わせるべきじゃなかった。申し訳なかった。予想外の出来事に守ることができなくて、ごめん。」
「………怒ってないよ。悲しみの方が強いかな。初めて他人からあんな言葉を聞いて、びっくりしたんだ。やっぱり、俺たちは……ふつう、じゃ……ないって……」
ぽろぽろと涙が再び流れてくる。泣き虫、と先生が親指で雫を拭った。
息を大きく吸い、背筋を伸ばして俺は続ける。
「でもね……やめたほうがいい……とかは思わないよ。大好きだもん。先生とそんなことが理由で離れたくないもん。俺、もっと強くなるよ。何を言われても平気なように、強い自分を持ちたい。言われっぱなしで凄く悔しかった。反論する気すら起こらなくて、先生のお父さん、めちゃくちゃ怖かったよ。嫌なオヤジだなって思った。好きか嫌いかと言ったら嫌いに入るから。」
いつまでも受け身ではいけない。愛する人を守るために出来ることからやっていくのだ。
先ずは、偏見に振り回されない自分になること。気にしないこと。
世の中には色んな人がいる。それを受け入れて、流さないと。いちいち気にしていたら身が持たない。
「……お前、結構言うな。仮にも俺の父親だぞ。だけど、安心した。葵が別れよう、とか言うんじゃないかって内心ビクビクしてたんだ。俺の好きになった奴は、そんなに柔じゃなかったな。惚れ直したよ。」
『惚れ直した』の言葉に嬉しくなり、思わず先生に抱きついた。
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