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思わぬ火消しにしおりをはさみました!
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思わぬ火消し
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愛されるって、こう言う事。
「………………………てか、火消しなんか浮かばへんな」
肌に伝わる、父親の筋肉の動き。
抱かれた時、この筋肉がとても熱くなって、包まれる感触に幸せを覚える。
大和はそこへ額を付け、小さく呟いた。
浮かぶ訳がない。
当代きっての極道者。
ヤクザの世界に名を馳せる、父親と高橋。
簡単にこの二人を止められたら、苦労しない。
大和、行き詰まる。
桜井、お前の名前だけは守ったる。
とりあえず、それだけは胸に誓っておこう。
と言うか、元を質せば、自分のうっかり発言が原因ですから。
よくお分かりで。
「大和……………………何か言うたか?」
そんな、自分の腕の中で俯く大和を見下ろし、嵩原は身を屈めた。
腰に当てていた手を背中へ回し、少しでも俯く顔を覗き込めるように身体を動かす。
少しでも。
抑えきれない程苛立ってますが、メロメロなんです、お父ちゃん。
さっきまで自分を見ていた顔が伏せられたら、気が気じゃない。
「…………………………親父」
ちょっとだけ目線を上げた先にチラつく、父親の端整な顔。
背中に回る指先は、腰からゆっくりと上がり、自分の身体を優しく包む。
その仕草一つ、嵩原がどれだけ大和を大切にしているのか見て取れる程、丁寧で温かい。
本当に、嵩原は大和を愛している。
感情的に苛立つ様もそうだが、他愛もない言動から汲み取れるのだから、よっぽどだ。
「若…………………………?」
そして、それは高橋も同じ事。
俯く大和へ心配そうに目を向け、僅かに顔を傾ける。
手は、いまだ握られたまま。
どんだけ愛されてるんだ、大和。
本人は、自分の掘り進めた墓穴に頭を悩ませているが、それを見る大人達は顔を上げさせたいと願う。
こちらを、向いて欲しい。
愛する人の俯く姿は、心を不安にする。
…………………………なんや、この展開。
反対に、大和は急に二人が優しくなってきたので、ドキドキしている。
自分はただ火消しに悩んでいるだけなのに、何故態度が変わったのかわかっていない。
さすが、お父ちゃんの子。
抜けてる所は、バッチリ抜けてます。
無意識に嵩原・高橋と言う、魅惑的な大人達を翻弄してしまっているのに。
「…………………………ようわからんけど、今なら話聞いてもらえるんかな…………………」
ですね。
父親のエロい首筋に顔を沈め、大和はホッと息を吐く。
自分の掘った穴は、自分で埋めるしかない。
この、ふって湧いたチャンスを逃すまい。
「お、親父…………………高橋、あんな………………」
いつもより、可愛らしく(自分なりに)話しかけてみたり。
颯やあるまいし、俺が可愛らしくて…………………。
茶髪のヤクザなガキんちょ。(背中刺青アリ)
どう考えても、寒い。
自分で言うのもなんだが、効果はない気がする。
父親に『きしょい』と突っ込まれるのが、関の山だろう。
そうそう、関のや……………………。
「ん?どないしてん、大和」
「何でしょう、若」
自分を見つめ、とっても甘い声で返事をする、父親と高橋。
効果があったぁ……………っ!!?
「嘘………………………」
話しかけた本人が、一番ビックリしている。
いい案が浮かばないが為に、ヘコみ気味に俯いただけが、空気を一変させた。
一体、何が起きた…………………!?
罪深きお子ちゃまは、何だか全身がゾワゾワして、こっ恥ずかしさから父親のシャツを握りしめた。
甘々過ぎて、こっちがビビる。
「いきなり黙り込んだら、気になるやないか……………言いたい事あるなら言うてみい」
いや、何度も言いたかったですけど。
「申し訳ありません、若……………………私らの気が立ち過ぎました」
ええ、誠に。
最初から、これで行ってや………………!!
恐くて口には出せないが、大和は心の中で突っ込みを入れた。
一時は、本気で桜井の遺影の幻覚を見た。
良かった。
火消しに苦慮したが、意外な所に解決策が転がっているものだ。
嫉妬に狂うも、相手を労るも、愛とは紙一重。
人の心は、摩訶不思議。
「何か、知らん間に……………助かったな…………………」
知らん間。
しかも、大和自身はいまだ、わかっていない。
どうやら、どえらい小悪魔が潜んでいたらしい。
それから大和は、二人に桜井の事を掻い摘まんでザッと説明した。
偶々、街でぶつかった事。
その時にコケそうになって、助けてもらった事。
(腰が痛かったと言うと、伊勢谷みたいに高橋からもつつかれそうだったので、伏せてみた)
その上、桜井は気さくでいい奴だったし、父親の雰囲気にあまりにも似ていて驚いた事。
「…………………………俺に?」
これには、嵩原も僅かだけ眉をひそめる。
「うん……………………なんて言うか………………顔もええ男やったんやけど、空気が親父の若い時を見てる感じやった。多分、あいつは大物になると思う………………それくらい、人を惹き付けるモン持ってる」
「え?…………………て事は、俺は人を惹き付けるモン持ってんや……………………」
持ってなきゃ、10年以上もカリスマ組長やれません。
でも我関せずな嵩原にしてみたら、桜井を通じて、自分が大和に誉められてるみたいで嬉しい。
好きな人に誉められる。
お父ちゃん、緩む口を手で覆い、ニマニマと戦う。
「……………………ホンマに、分かりやすいお方ですね。貴方は……………………」
それを見る高橋は、やや飽きれ顔。
「あ、高橋…………………ふてとる?ふてとるやろ?」
「ふててません!もっ…………ガキやないんですよ!」
ふててるな。
嵩原にからかわれ、高橋は声を張る。
嵩原の手にかかると、高橋もこうなる。
微かに頬を赤くし、あからさまにムッとする所なんか、他の組員では引き出せません。
「仲ええな……………………」
それがまた、大和には羨ましく見えるのだから、世界は妙な形で流れを作り出す。
これに安道が加わっても、きっと父親は気の合う姿をさらすのだ。
だから、本当の姿も見せれる。
見せても大丈夫なだけの力も、勿論高橋と安道にはあるから。
安心感。
要は、それ。
「………………………忘れてたわ……………………俺が、何で桜井に見とれたか…………………」
父親と高橋に挟まれ、ワイワイやっていたから、それどころじゃなかったが…………………………。
寂しかった。
愛しても愛しても、知り得ないソレに。
「寂しかったんや…………………」
大和は、思わずポツリと声を漏らす。
「大和………………………?」
「………………………………若」
ポツリ。
聞いてないようで、聞いている。
見てないようで、見ている。
姫の声に、王子達はちゃんと耳を傾けてます。
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